東日本大震災の復興財源をめぐって子ども手当の廃止が焦点になっている。東京都内在住で共稼ぎのAさん夫婦は、「1か月2万6000円」の子ども手当支給を期待して2人目の子どもをもうけた。
「4歳の上の子の保育所の月謝が7万円。とても2人目は無理とあきらめていたが、2人で5万2000円の手当があればなんとか下の子も保育所に預けることができると考えました」
この政策への期待は高く、子ども手当が始まった2010年の合計特殊出生率は1.39で前年、前々年の1.37を上回った。現実には半額しか支給されなかったのだが、それでも効果が出たということだ。
だが、その半額さえもらえない上に、扶養控除は廃止。Aさん夫婦は10月から子ども手当が廃止されて自公政権時代の児童手当に戻れば所得制限(子供2人で課税所得860万円以下)で支給額はゼロになり、保育所の月謝2人分14万円はすべて自己負担でまかなわなければならないという。
廃止となれば確実に子供を増やそうというインセンティブは減る。
それでも大メディアは、国民が高速無料化や子ども手当の廃止を望んでいると報じている。各紙の世論調査は4月に一斉に行なわれ、いずれも「復興財源のために、子ども手当を廃止すべきか」という質問に対して、廃止賛成が「83%」(読売)、「66.3%」(共同通信)、「66.5%」(産経・FNN)――となっている。
こうした調査を根拠に、大メディアは社説で「子ども手当などばらまき政策を撤回すべき」(読売)と主張する。
だが、日本の将来を考えると、子ども手当という少子化対策をやめて子供が減っていいわけはない。
子ども手当を受給できるのは全世帯の2割にすぎない。8割は「負担する側」だ。世論調査は共稼ぎの子育て世帯が不在がちな平日の昼間に電話で行なわれるため、子育て世代の声が反映されにくいという指摘があるうえ、メディアが「ばらまきだ」と煽り立てる状況の中で、正確な国民の声が反映されるとは思えない。
そもそも、子ども手当のような「負担者」と「受益者」がはっきり分かれる政策で、大メディアのように国民の過半数の賛成がなければやるべきでないというなら、福祉政策は高齢化社会の中で多数派である高齢者重視になり、少数派の若い世代のニーズは汲み取られなくなる。
退陣する菅政権一派がメディアや野党との談合で企てているのは、観光産業が冷え込んで景気が悪化しようと、将来、少子化が進もうと知ったこっちゃない、震災のドサクサに紛れて、国民のカネを吸い上げてしまえということなのだ。
※週刊ポスト2011年7月8日号