2012年5月に日本の原発は54基がすべて止まり、再稼働のメドが立たない状況に。そんな事態が現実化しそうになってきた。そのとき、日本に何が起こるのか。大前研一氏が解説する。
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日本の原発は13か月運転するたびに2~3か月の定期検査を行なう。検査が終わると原子力安全・保安院がチェックし、それを受けて地元の市町村長と道県知事が了承したら政府が再稼働を認める、という流れになっている。
法律でそう定められているわけではないが、慣習上そうなっている。ところが3.11以降は、定期検査を終えて再稼働するはずだった原発が、1基も再稼働できていない。地元のコンセンサスを得ることができないからだ。
今や原発がある13道県の知事たちは、経産省はもとより官邸も原子力安全・保安院も原子力安全委員会も信用できないから「再稼働にイエスといわない」という暗黙の了解ができている。
このままいくと、来年5月までに日本の原発は54基すべてが止まり、再稼働のメドが立たない状況に追いこまれてしまう。
その時は、東日本よりも西日本で問題が深刻化する。なぜなら、原子力の依存度は関西電力が45%、九州電力が42%、四国電力が41%と、東京電力の28%や東北電力の21%より、はるかに高いからである。
とりわけ窮地に立たされるのは関電だ。現在、関電は四国電力から電力を買っている。四国電力は地元に産業が少なくて発電能力が余っているため、関電に売電しているのだ。ただし、実は今、四国電力は火力発電所を止めて原発を動かしている。
ということは今後、原発が定期検査に入って再稼働できなくなったら、四国電力は自分が足りなくなるので、当然、関電に売電するのはやめる。すると関電は、ただでさえ45%も依存する原子力が止まる上に四国電力からの電力も来なくなり、目も当てられないような状況に陥ってしまう。
しかも、企業は3.11後、本社機能の一部やサーバーなどを西日本にシフトしている。すでに関西にバックアップ用のデータセンターを造った会社もある。これから西日本は電力需要が増大する一方で、BC(事業継続)リスクは日増しに高まっていくのである。
この問題は、ある意味、福島第一原発や東北地方復興の問題よりも日本全体にとってシリアスだ。関電や九電が東電のような計画停電を実施する事態になれば、もはや企業は国内で事業を継続することが困難となり、本格的に海外シフトが加速して日本経済は危機的状況に向かうだろう。
※週刊ポスト2011年7月15日号