15%節電を目標に掲げた今夏、猛暑は多くの人の心を揺さぶっている。
静岡県の主婦Sさん(48才・仮名)は、両隣と後ろを一軒家に囲まれた分譲住宅地に住む。原発事故後、この地域は節電モードで夜になっても街灯がつかず、辺りは真っ暗だという。
「ここは節電意識が高く、夜でも明かりがともるのはリビングだけのお宅が多いんです。私も同じように頑張って、梅雨にはいってからもエアコンは一度も使っていませんでした」(Sさん)
しかし、6月24日はいつもと違った。子供と夫を送り出し、掃除や洗濯などの家事をこなしていたSさんは体の異変を感じた。
タンクトップで氷水片手に作業していても汗はダラダラ、頭はクラクラ。“このままでは危ない”と感じ、恐る恐るエアコンのリモコンに手を伸ばした。
「でも家の外を見回すと、どこのお宅も窓を全開にしていました。みんな当たり前のようにエアコンを切っていたんです。密集した住宅街のため、エアコンを使うと室外機の音でご近所に知れ渡ってしまいます。みなさん我慢しているときにちょっと暑いくらいでエアコンを使っていいものか、本気で迷いましたね」(Sさん)
思いあぐねた末、Sさんは家中の窓を開けたまま、大きな声でひとりごちた。
「ああ、今日は実家の80才になる母が遊びに来ているから、本当はいやだけどエアコンつけないとね。お年寄りが熱中症になると大変だし…」
リモコンでスイッチを入れると、静謐な住宅街にウヮンウヮンという室外機の音が響いた。しかし、“名演技”の代償は大きかった。この日以来、彼女の家には実家の母が滞在していることになっている。
※女性セブン2011年7月21日号