電波を県域内に限定した「県域免許」の導入により、政府は地方TV局および、局を経営する地方紙をコントロールする構造を確立した。その結果として、テレビ・ジャーナリズムが正しい情報よりも、権力にとって都合のいい情報を流すことに腐心してきた構造的堕落は、非常にわかりやすい。
政・官にとって衛星放送やケーブルテレビが発展してもらっては困る事情はそこにある。地上波がやらない「自由な報道」や「権力監視」を新しいメディアが始めたら非常に困ることになるからだ(現にいまや政府の規制を恐れないネットメディアが次々と政府と大メディアの嘘を暴き出している)。
テレビを地上波に固定化し、睨みの効くキー局発信の情報が全国に行き渡る県域免許こそ、テレビを「権力の道具」にするために不可欠だったのである。
「そんな政府の意向は、テレビ事業を地上波で独占して利益を確保したかったテレビ局にも都合がよかった。たとえば、地上波のライバルになるBS放送は、総務省とテレビ局があらかじめテレビ局の子会社でBS放送を占拠できるように枠組みをつくってからスタートさせた。政治と一体化して利権を確保してきたのが日本のテレビです」(地デジ化政策に詳しい政策研究大学院大学・福井秀夫教授)
地上波放送が始まって58年経つが、1局も倒産や合併、買収がないことは他業態ではありえない(イトマン事件で詐欺被害に遭ったため倒産した近畿放送は例外)。市場原理も国民利益も無視した電波メディアの「護送船団」がいまだ貫かれているからだ。
※週刊ポスト2011年7月22・29日号