ソニーがハッカーの標的となり、彼らの知られざる生態について関心が集まっている。いったい、ハッカーとは、どんな人たちなのか? ITに詳しいコラムニストの小田嶋隆氏が解説する。
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ハッキングをしても、ハッカーたちは基本的に儲かったりするわけではない。手に入れた情報を売り飛ばして大儲けする、というケースはほとんどないのだ。
なのに、なぜ捕まる危険を冒してまで他人のパソコンに侵入しようとするかというと、「そこに謎があるから」だ。登山家が「そこに山があるから」と言うのと同じ。
この手の情報はコンピュータの草創期からずっとあった。有名な月刊誌『ラジオライフ』(三才ブックス刊)はその先駆けだ。創刊初期はAMラジオのリスナー情報雑誌だったが、次第に「警察無線の聞き方」などのいわば“裏情報”を載せるようになり、IT関係も扱うようになった。
初期の内容でほほえましいのは、森永チョコボールの「金のエンゼル」「銀のエンゼル」の出現確率を解き明かそうとしたものだ。これがウケた。つまり、そこに謎があれば、解き明かさずにはいられないというメンタリティの持ち主が読んでいる。これはハッカーの基本姿勢に通じる。
ハッカーはアメリカでも日本と同じ。たとえば、アップルの創業者の一人、スティーブ・ジョブズはもともとハッカーだ。
彼が1970年代に長距離電話をタダでかけられるブルーボックスという装置を、後にアップルで共同設立者となるスティーブ・ウォズニアックと共に作って売りさばいたのは有名な話である。
こうした電話の謎の部分や通話のメカニズムに精通したマニアは「フォーン・フリーク」と呼ばれたが、ジョブズはその走りだった。
フォーン・フリークたちはパソコンが登場すると、みなハッカーに転身して、今度はパソコンの謎に挑戦していった。謎やメカニズムに対する好奇心が彼らの根底にある。
そして、ハッカーたちのメンタリティとして根付いているもう一つの要因が、反権力、反資本主義である。
1986年にオランダのアムステルダムで「世界ハッカー会議」があり、「世界ハッカー宣言」が出された。私は当時、雑誌の原稿のためにこれを翻訳したのだが、内容は「どんなものであれ、情報を媒介するツール、ならびにシステムは全面的かつ包括的に無料であらねばならない」というものだった。
彼らにしてみれば、情報の出入り口には必ず権利や権力が絡んでいて、既得権益を持つ者が跋扈していると思っており、それに対する反発がある。いわば、“体制”に対する挑戦なのだ。気分は坂本龍馬なのだろう。
現在の権力や権利の体制が、彼らには幕藩体制に見えるのかもしれない。ソニーのような大企業は、「崩すべき権力」なのである。だから、ハッカーがヒーローのように扱われているのだ。
※SAPIO 2011年7月20日号