若い中国人カップルの間で「訪日ツアー」がブームだそうだ。
震災直後、中国政府の帰国勧告を受けて各地の空港が中国人の帰国ラッシュで大混雑したことは記憶に新しい。そんな放射能パニックに陥った中国人が戻ってきたのかと思えば、どうも歓迎できない動機がありそうである。
「被曝によって男児が生まれる確率が高まる、というドイツの研究が中国紙で報じられたからです」(中国在住の日本人ジャーナリスト)
『北京晩報』は6月8日付で、〈放射線で男の赤ちゃんが増える〉と題した記事を掲載。核実験が頻繁に行なわれた1960~1970年代にかけての欧州・米国や、チェルノブイリ原発事故の2年後のベラルーシ、ドイツとスイスの原発周辺の地域でも男児の出生比率が高くなったという怪しげな研究発表を報じたのである。
これがトンデモ説であることはいうまでもない。本誌4月8日号で報じた通り、放射線影響研究所は原爆投下を受けた広島、長崎での大規模な調査から、放射線被曝が人間の遺伝子の伝達に影響を及ぼさないと結論づけている。だが、一人っ子政策が続くなかで男児を希望する風潮が強い中国人が、この情報に飛びついたのだ。
中国のネットユーザーは記事に即反応。中国版ツイッター『微博』には〈男の子を授かりたいなら日本に行け〉〈すぐに日本行きの航空券を買いに行く〉〈旅行会社は男子懐妊ツアーを組んでくれ〉などの書き込みが相次ぎ、ついには〈訪日旅行を盛り上げるために小日本が考えたデマじゃないか?〉という陰謀論まで登場した。
瀋陽の日本総領事館に問い合わせると、4月にはゼロだった訪日ビザの発給数は、5月に23人、6月に1900人と大幅に増えている。
中国人団体を取り扱う日本の旅行会社の添乗員が苦笑交じりに語る。「九州の阿蘇山を案内した時、新婚の中国人カップルから、“放射線量はどのくらいか”と尋ねられました。“何も心配いりませんよ”というと、男の赤ちゃんが欲しかったそうで肩を落としていました」
日本にカネを落としてくれるのは歓迎だが、冷やかし半分の来日は勘弁してもらいたい。
※週刊ポスト2011年7月22・29日号