原発と共存していた町では、“箱もの”が目立つ。原発誘致にともなう多額の交付金の使途に、これまでも疑問の声もあがってきた。だが、震災後初めての原発稼働騒動に揺れる佐賀県・玄海町の岸本英雄・町長(58歳)町長はその批判に反論する。フリーライターの酒井一郎氏が報告する。
* * *
「私の判断は無駄だった」
ストレステスト(耐性検査)が前提条件とされたことで、いったんは玄海原発2、3号機の運転再開を容認していた岸本町長が同意を撤回した。それでも、まだ町は揺れている。玄海町の今年度当初予算約57億円のうち、原発関連の歳入は交付金、固定資産税合わせて約30億円。財政の6割以上を“原発”に頼っている。2009年度の財政力指数は全国757町中9位とトップクラス。佐賀県唯一の地方交付税不交付団体でもある。
撤回発言の3日前。人口6400人足らずの町には不釣り合いな豪華な町役場。その町長室のソファーに深く腰を下ろした岸本町長が町の歴史を振り返る。
「原発の誘致が始まった40年前、この町は小学校の改築もできず、“佐賀のチベット”と呼ばれるほど貧しかったのです。先人たちは原発が町おこしのきっかけになると考え、覚悟を持って受け入れを決断した。私はそのバトンを受け継いだ責任があります」
2007年度までの交付金の総額は210億円を超え、町の中心から玄海原発までの国道204号線沿いには“町おこし”の象徴が立ち並ぶ。
1990年度に完成した町民会館は、総事業費27億円のうち交付金が25億円以上を占める。建物の半分以上が海の上という「玄海海上温泉パレア」は17億円をかけて2004年にオープン。5年前には23億円を投じて特別養護老人ホーム「玄海園」が完成した。
海岸から駆け上がる階段のように連なる棚田を望みながら国道を北上すると、玄海原発に突き当たる。右手には11万立方メートルの「玄海エネルギーパーク」。実物大の原子炉の模型を展示するサイエンス館や九州ふるさと館などが立ち並ぶPR施設は、九州電力が99億円の巨費を投じて2000年にオープンした。来年4月には同じ敷地内に核燃料サイクル交付金から12億円が充てられる「次世代エネルギーパーク」が完成する予定だ。
岸本町長はこう話す。
「“箱もの”と批判されるのは心外です。当時の交付金は規制が多く、期限も区切られていたので建築物に使うしか道がありませんでした。10年、20年経って“箱もの”だと批判するのは勝手過ぎます。町の規模が小さいから目立つだけで、どこの自治体も同じようなものじゃありませんか」
※SAPIO2011年8月3日号