日本的な終身雇用システムにおいては、会社が潰れない限り安定した収入が得られる一方で、一度、職を失うと転職すら難しくなるのが現状だ。この日本の雇用システムが生み出した悲劇について、資産運用や人生設計についての多数の著書で知られる作家・橘玲氏が解説する。
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日本的な雇用慣行は、今回の大震災に匹敵する悲劇をも引き起こしている。
1997年の山一証券、北海道拓殖銀行の破綻を機に、翌1998年には日本長期信用銀行(長銀)、日本債券信用銀行(日債銀)という“潰れるはずがない”大手金融機関が次々と倒れていった。これによって日本の「会社神話」は崩壊し、それ以降、日本の自殺者数が急増している。
この、いわば「見えない大災害」によって、それまで年間2万2000~2万4000人で推移していた日本の自殺者は3万人を超え、ロシアなど旧社会主義圏と並ぶ世界有数の「自殺大国」になってしまった。今回の震災による死者と行方不明者を合わせると3万人近くに上るといわれるが、1998年以降、日本ではそれまでより毎年8000人も多い人たちが自ら命を絶ち、それが12年も続いている。この「見えない大災害」の死者は10万人を超える計算になるが、これはとてつもない数字だ。
統計を見れば、1998年以降に増えた自殺者の大半が40代、50代の男性なのは明らかだ。日本の雇用問題はこれまで若者の非正規雇用やニートを中心に語られてきたが、もっとも大きなしわ寄せは、住宅ローンや教育費などの負担がかさみ経済的リスクの高い中高年男性に集中している。
日本では一定の年齢を超えると転職は事実上不可能になるが、会社をクビになっても生活コストは減らせないから、消費者金融に頼らなければ生きていけなくなる。それが行き詰まれば闇金に手を出し、最後は自らの生命保険で借金を清算するしかない――そんな構図が容易に目に浮かぶ。
こうした悲劇の原因は「市場原理主義」ではなく、年功序列と終身雇用の日本的雇用制度にある。流動性のある労働市場のない日本では、いったん会社から放り出されると、すべての経済的な基盤を失ってしまう。「世界で最も優しい」といわれた日本的雇用システムは、実は10万人もの死者を生み出す“元凶”だったのだ。
※マネーポスト2011年7月号