ジャーナリスト・武冨薫氏の司会&レポートによる本誌伝統企画「覆面官僚座談会」。呼びかけに応えた官僚は経産省ベテランA氏、財務省中堅B氏、総務省ベテランC氏、経産省若手D氏、内閣府若手E氏の5人。政府の脱原発論議がなぜ迷走しているのか話し合った。
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――脱原発問題が迷走しているのは、「事故処理費用」をめぐる経産省と財務省の綱引きに政治も大新聞も巻き込まれているからか。
経産A:上層部は、原発を容認していた朝日新聞が菅首相の脱原発会見に合わせて「原発ゼロ社会」を提唱し、掌返したことにいきり立ち、財務省の動きに神経を尖らせている。これまでは電力業界が広告の力で原発推進をいわせてきただけだから、朝日の論調の変化自体は、原発事故をきっかけに左派路線=反原発に先祖返りしただけともいえる。ただ、自然エネルギーを増やして原発を代替するという議論はレベルが低すぎてお笑いだ。
財務B:メディアの科学的知見の乏しさを利用してきたのは経産省でしょう。朝日でさえ、「原発ゼロ社会」を社説に掲げた後に「玄海原発の停止で自動車生産が厳しくなる」と報じている。脱原発と騒いでいるのは一部で、記者クラブにはちゃんと毒が回っている。
経産A:毒ねェ……。確かに電力会社の記者接待は傍から見ても徹底している。東京電力の勝俣恒久・会長が震災当日に主要紙の幹部らと中国に行っていたことが話題になったが、そんなことはどの電力会社でも昔からやってきた。バスを仕立てて若手記者たちを「原発視察」に連れて行き、近くの温泉で宴会。コンパニオンをつけるのがお約束だ。ただし、それはあくまで電力会社がやったことだよ。
財務B:逃げないでください。そうして毒が回った記者が原発推進記事を書く際の資料は経産省が用意する。記者はそれで「電力会社に書かされた記事ではない」という言い訳ができる。D君も資料づくりをやらされただろ? で、それをやると上司に誉められて料亭に連れて行ってもらったはず。その費用も電力会社持ちさ。
――その費用は元をたどれば国民が払う電気料金です。どう思う、Dさん?
経産A:(D氏を手で制して)それはわが省の伝統だから、D君個人を責めても仕方ないだろう。
内閣府E:ウチも国の広報予算を新聞やテレビに撒いているから偉そうなことはいえません。ただ、経産省は電力業界に広報費を肩代わりさせているから、官僚も、接待を受ける記者も罪悪感がない。だから歯止めが利かなくなるんじゃないかな。
経産A:この状況だから批判は甘んじて受ける。でも(C氏に視線を向けて)、財務省は1円も使わずに復興増税の世論をつくった。主要メディアに税務調査をかけまくって黙らせたわけです。読売新聞が丹呉泰健・前財務次官を社外監査役に迎えたことも“偶然”のはずがない。メディア工作というならそっちの方が猛毒だと思う。
※週刊ポスト2011年8月5日号