電力使用制限令により、政府が企業に対して15%の消費削減を義務づけるという社会主義のような暴挙に出たために、企業は節電に四苦八苦し、弊害の方が大きい節電が実施されることになってしまっている。そうした事態に異を唱えるのが、獨協大学教授の森永卓郎氏である。
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企業の節電策は従業員だけでなく、消費者にまで影響が及ぶ。物量規制(電力削減規制)をすれば、サービスの質が低下し、商品の多様性が失われ、経済から活力が奪われていくのである。
旧東ドイツには、ダンボール製ボディと揶揄されたトラバントという小型乗用車しかなかったが、そういう世界にどんどん近づいていく。
山崎製パンは、工場の被災や震災直後の計画停電の影響で、生産品目を大幅に絞り込んだが、このまま商品をほぼ半減させる方針だという。ランチパックは50種類以上のラインナップがあるが、一時ツナとタマゴぐらいしか売られていなかった。
市場にある商品が1種類ずつでも生活できないわけではないが、商品の量と選択肢があることが豊かさそのものであり、資本主義のいいところである。企業が節電のために商品を絞り込んでいく行為の行き着く先は、社会主義経済である。
定期検査中の原発を再稼働させれば、無意味な節電努力は不要になるわけで、なぜ稼働させないのか私には不思議で仕方がない。浜岡原発は停めたから安心だと思っている人が多いが、原子炉内の燃料や使用済み燃料は冷やし続けなければならず、大津波で冷却用電源を喪失すれば福島第一と同じことになる。停めてもリスクはほとんど変わらないのだから動かした方が得ではないのか。
反原発派の人々は「昭和30年代に戻ればいい」というが、過去の時代は美しく見えるだけで、冷静に思い返せば決していいものではなかった。エアコンはもちろんなかったし、冷蔵庫は氷で冷やす方式だった。
ビフテキは想像上の食べ物で、町は汚く、夏にはゴミが腐って悪臭を放ち、治安も決して良くはなかった。ろくな医療もなく、日本人の寿命は短かった。私はそんな時代に戻りたいとはまったく思わない。
※SAPIO 2011年8月3日号