電力の供給問題は、日本にとって喫緊の課題である。電力が絶対的に不足する期間が3年も4年も続いたら、日本から大半の産業が逃げ出してしまう。その危険性を、大前研一氏が指摘する。
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第一陣は外資系企業だ。日本の電力不足の状況と日本政府の対応能力のなさを見て、すでに外資系企業の日本の社長たちは、日本にある工場やオペレーションを他の国に分散するBCP(事業継続計画)を一刻も早く提出するよう本社から要求されている。彼らは自分のクビがかかっているから、のんびり構えてはいられないのだ。
さらに、日本だけに部品や機械を依存していたらリスクが高いと思い知った東アジアのメーカーが、調達先を日本以外に分散することも必至だ。
この4か月でとくに苦労したのは世界最大のEMS企業である鴻海精密工業、パソコンメーカーのASUSやクオンタ、スマートフォン・携帯情報端末メーカーのHTCといったチャイワン勢(提携・協力関係にある中国・台湾企業)だ。
なかには部品を東北地方の一工場に全面依存していたため、生産ラインが完全にストップしたケースもあった。
過日、台湾の大手EMSメーカーの会長に話を聞いたところ、日本側の不誠実な対応(納期と出荷量を全く教えてくれない)に激怒していた。事情は理解しているが、これでは共倒れになってしまうと危惧している。
いま日本の部品メーカーや機械メーカーの顧客が望んでいるのは、日本に依存していた生産能力の半分を海外に分散することだ。チャイワン勢は、台湾か中国ならいつでもお世話しますよ、と手ぐすねを引いて待っている。現状のまま打開策が見いだせないと、今後、「脱日本」が、双方の事情で加速するのは間違いない。
※週刊ポスト2011年8月5日号