国内

被災地住宅地の高台移転推進し元の場所に戻ること許さぬ理由

 ジャーナリスト・武冨薫氏の司会&レポートによる週刊ポスト伝統企画「覆面官僚座談会」。呼びかけに応えた官僚は経産省ベテランA氏、財務省中堅B氏、総務省ベテランC氏、経産省若手D氏、内閣府若手E氏の5人。

 霞が関が「官僚たちの夏」に沸いている。国会では約2兆円の2次補正予算が成立し、これから10兆円を超える復興目的の3次補正予算、そして来年度本予算の編成が始まるからだ。

「東北の復興は新たな国づくりの壮大なモデルだ。血が騒いでいるというなら、それを手がけるという使命感であって、銭カネの問題ではない。そうでしょう」

 総務省ベテランのC氏が大仰な口調で同意を求めると、他の4人も大きく頷いてみせた。

 が、「オール霞が関」が足並みを揃える時、それが国のためではなく、官僚機構のための行動であったケースは枚挙に暇がない。覆面官僚座談会の最終回は、司会者と霞が関の対決構図で始まった。

 * * *
――復興のために各省が縦割り行政や規制のしがらみを取っ払い、思い切った地域再生に取り組むなら異存はない。しかし、政府の復興計画の実態を調べてみると、「霞が関のユートピアづくり」に思えてくる。

総務C:やけに挑戦的なもの言いですね。

経産A:まァ、まずはご意見を拝聴しましょうか。

――復興構想会議は、津波被災地の宅地を海沿いから高台に移転させる防災都市づくりを打ち出した。土地を買い、山を削り、大規模造成して住宅地が完成するまで何年かかるのか。

総務C:復興ビジョンは各県ともにおおよそ10年計画となっている。高台への移住に5年、そこに市街地機能が定着するまで5年程度かかる見通しだ。

財務B:それが3次補正の柱になる。防災集団移転事業では造成費や住宅建設費は国が4分の3(自治体が4分の1)を補助するが、全住民が高台に住みたいと希望したら財政はパンクするだろうね。

――しかし、仮設住宅の入居期限は原則2年だ。復興住宅建設に5年もかければ、被災者は2年後に復興難民となりかねない。それに復興住宅の完成を待つ間は、住民の生活再建はストップしたままになる。地元自治体からは高台移住に反対論が出ている。

総務C:阪神・淡路大震災の時も入居期間が3度延長され、最後の1人が退去したのは5年後だった。

経産D:でも、冬の厳しい東北地方で被災者の年齢層も高い。5年も仮設で過ごせというのは酷ですね。

総務C:確かに、元の場所に戻って生活再建したいと希望する被災者は少なくない。しかし、それを認めてまた津波の被害が出たら行政の責任になる。もう「未曽有の災害だから」という言い訳はできない。

内閣府E:住民の希望をそのまま受け入れることが、行政の使命ではない。政治家のように感情に流されてはいけません(C氏は満足そうに頷く)。

※週刊ポスト2011年8月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン