電気料金はどうやって決まっているか、ご存じだろうか? 様々な業界でお役所による「変なルール」「バカなルール」を指摘する話題の新刊『「規制」を変えれば電気も足りる』(小学館101新書)を上梓した元経産省キャリア官僚の原英史氏(現・政策工房社長)が、電力業界のおかしな規制制度を解説する。
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世の中の多くの商品の場合、「たくさん買うほど割安になる」のが通常だ。「10個買えば1個オマケ」なんてこともある。だが、電力は違う。日本の家庭向け電力料金(従量料金)は、「3段階制度」と呼ばれ、「多く使えば単価がより高くなる」仕組みだ。
東京電力の場合、1kWhあたりの料金は、消費電力がゼロから120kWhまでが約18円300kWhまでが約23円、それを超えると約24円になっている。
こういう料金体系は、「地域独占」で、競合他社がいないからこそできることだ。例えばタクシー業界でこんな料金体系を適用したらどうなるか。料金の距離単価が最初の10kmまでは1kmあたり100円、20kmまでは1kmあたり200円といった具合に段階的に上がっていくとしたら、客は10kmごとに乗り換えるだろう。
この3段階制度が導入されたのは1974年、オイルショック後の家庭の使用電力を抑制するために、多く使う家庭にいわばペナルティを課す意味があった。それがその後も残ってきたのだ。
もっとも、競争相手がいないからといって、電力会社はいくらでも高い料金をつけられるわけではない。そこはさすがに規制がある。電気事業法で、料金は認可制とされ、電力会社が不当に高い値段をつけようとしても、役所が認可しないことになっている。
●電気事業法19条2項
一 料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること。
つまり、「電気料金」=「適正な原価」+「適正な利潤」。無茶苦茶なコストをかけたり、過剰な利潤を乗っけることは許されないわけだ。こういう料金の決め方を、「総括原価方式」と言う。
この規制、不当な料金設定から消費者を守ってくれる「まともな規制」と見えるかもしれない。だが、もう一度、ビジネスの目線で見てほしい。電力業界以外でビジネスをしている人からしたら、随分とうらやましい算式ではないだろうか。
コストに必ず「利潤」を乗っけて料金を決めてよい。市場で商品が売れなくて、原価割れで売りさばくなんていう事態は絶対にない。そして「地域独占」でお客は決して逃げず、決めた値段で買ってくれる。「適正な原価」というのも、ちょっと考えてみると怪しい。
例えば、巨大発電所を作る際に調達する資材や機器は、専用の特殊製品で市場価格など存在しないものが多い。値段が「適正」かどうかは、結局、電力会社とメーカーにしかわからない。まさに究極の“殿様商売”が保証されていたわけだ。
日本の電気料金は、アメリカと比較すると、2倍程度(出典:資源エネルギー庁資料、2009年国際比較)。こんな規制制度の下では、当然のことだろう。