ワールドカップで優勝しても泣かない「なでしこ」に対し、国会で泣く海江田万里大臣。前者が共感を持って受け入れられたのに、後者がまったく共感を呼ばないのはなぜなのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏の視点は、こうだ。
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「なでしこジャパンは、なぜ泣かないのか」について以前分析した直後でした。
海江田大臣が国会で、顔を赤くして号泣したのは。あまりにも想定外のシーンで、見ているこっちの方がびっくりした、という人も多いのではないでしょうか。
一週間経ってもあの号泣シーンは風化するどころかますます注目され、強調され、テレビやネットで問題の映像が繰り返し流され続けています。首相後任を決める民主党代表選の話題でも、海江田氏の名前がちらつくと、「あの人は泣いたから失格」と断罪される始末。
それほど、あの号泣シーンは、インパクトが強かったのです。そのあたり、泣いたご本人も見込み違いだったのでは。
泣いた理由は、いまだによくわかりません。が、もし、「自分は被害者だ」と同情を集めるための行為だったとしたら……。海江田氏は本当に「政治の素人」です。
そんな涙にだまされるほど、国民は「ウブ」でも「素人」でもありません。「政治家は、人のことで泣いても、自分のことで泣いてはいかん」とは民主党顧問・渡辺恒三氏の言。やはり長年政界にいただけあって、このコメントは多少、「政治の素人」よりも水準が高いようです。
私たちが他人の感情を理解できるのはなぜでしょうか。脳の中には「鏡のような神経=ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞があります。相手が何かの行為をすると、それを見ている人の脳の中でも、同じ細胞が発火することがわかってきました。
たとえば、涙を流す相手を見て自分も悲しい気持ちになったり、他人の苦痛に自分の心をふるわせたり。空気を読んだり、場の雰囲気に共感したりするのも、ミラーニューロンの働きによるところ大です。
サルやヒトなどの霊長類は、群れを作って共同生活するため、他者の感情をすばやく理解し、適切な対応をする必要がある。ミラーニューロンが発達したのはそのためではないかと言われています。
ところが、海江田氏の「号泣」に対して、私たちのミラーニューロンによる共感システムは一切、作動しませんでした。
感情を共有するその前に、日本国民の脳神経は「ロック」し、固まってしまったのです。いったいなぜなのでしょう。それは、あの号泣シーンが、あまりにも「驚き」だったから。
「驚き」とは、想定を超えたところに生じます。
「政治家とはこうあるべき」という最低限の想定から、あまりにもかけ離れたふるまい。そして、民主党が掲げてきた「官僚指導」というコンセプトからあまりにも遠い服従ぶり。
私たちのミラーニューロンが働かなかったその理由とは、「政治とはこうあってほしい」というささやかな望みと、海江田氏のふるまいとの間に、あまりにも巨大かつ深刻な溝があったせいではないでしょうか。
もし、そんな海江田氏が民主党代表選挙に出馬するとしたら。いったいそんな海江田氏に誰が共感するのでしょうか?