菅首相の打ち出した「脱原発依存」により、国家戦略として進められてきた原子力政策は白紙に戻されることになる。これにより生じてくるのがプルトニウムの処理問題。この件について、大前研一氏はこう指摘する。
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ドイツは2022年までに全原発の停止を決めたが、もし日本が同様に脱原発の年限を決定すれば、これ以上プルトニウムを保有する理由はなくなる。プルサーマル(※)を継続するとしても、いま保有している量で十分足りるからである。核燃料サイクルを行なう必要はなくなり、巨額の費用を注ぎ込んだ青森県六ヶ所村の再処理工場も不要になる。
だが、そもそも核燃料サイクルは、国家戦略として自民党と外務省と防衛省と経産省が阿吽の呼吸の中で長い時間をかけて構築してきた巨大プロジェクトの側面がある。プルトニウムを保有することで、90日以内に核武装ができる「ニュークリアレディ国」となることができ、核兵器を持たずとも「核抑止力」の効果を得られるからだ。そのために原子力政策を推進し、プルトニウムを蓄え、「もんじゅ」などの高速増殖炉を建設してきたのである。
それが菅首相の「脱原発依存」宣言により、一瞬にして吹き飛んでしまった。もちろん、国民に黙ってそんな姑息なことをしていたのだから、それでも構わないという意見もあるだろう。
しかし、あの宣言で崩壊したものはあまりにも大きい。六ヶ所村の再処理工場に関わっている原子力エンジニアは「懸命に地元を説得し、ようやく来年は本稼働にこぎつけるところだったのに、すべてが水の泡になった。自分たちの20年の苦労は、いったい何だったのか」と悲憤慷慨していた。
※プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を通常の軽水炉で利用すること
※週刊ポスト2011年8月19・26日号