【書評】『ウォール・ストリート・ジャーナル陥落の内幕』(サラ・エリソン著・土方奈美訳/プレジデント社/2100円)
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この11年間、米国の新聞はネットメディアに押され、次々に廃刊に追い込まれてきた。
〈新聞業界はまるで猛烈な自然災害に襲われたかのように崩壊しつつあった。コミュニケーション業界をざっと見渡せば、恐怖、混乱、そして血に飢えた闘犬のような株主が蔓延していた〉
その大波からは、業界でも唯一無二の存在と言われたウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)も逃れられなかった。
105年にわたって“モノいわぬ大株主”としてWSJの庇護者であり続けたバンクロフト家は、メディア王、ルパート・マードックが破格の買い取り価格を提示すると分裂と内紛を起こした。長い年月によるオーナー家の劣化を白日の下にさらしたあげく、最後はメディア王の軍門に下った。
数十年来の悲願を達成したメディア王は、WSJの記者らにいう。
〈新聞はピュリツァー賞を受賞するような記事ではなく、読者が読みたいと思うような記事を載せてこそ生き残れる〉
こうして33回のピュリツァー賞受賞に輝くWSJの歴史は、一つの幕を閉じたのだ。
本書は元WSJ記者による、身売りの内幕を暴露したノンフィクションであり、金融資本主義とジャーナリズムの独立との相克を描き出す。もしマードックが買収していなければ、WSJは生き残れたのかといわれれば、否と答えざるをえない現実がある。
だが、傘下に置くイギリス大衆紙が「読者が読みたい記事」を書くために盗聴していたことを糾弾され、メディア王も今は窮地に立たされている。メディア王の大衆迎合主義もまた破綻を見せているのは皮肉である。
※SAPIO2011年8月17日・24日号