「オレには運がない…だから出世もしないしカネもないし女にもモテない」――そう嘆くのは早い。最新の研究では、「運を呼び込む習慣」があるというのだ。そこで重要なのは幸運の人と不運の人を隔てるものが何かを知ることである。この奥深きテーマに確率論ではなく心理学的なアプローチで迫るのが、「認知的焦点化理論」だ。
京都大学大学院工学研究科の藤井聡教授が説明する。
「人が心の奥底で何に焦点を当てているかに着目した研究です。ひと言でいえば、ある人が物事に向き合うときに、どのぐらい他人のことを配慮できるかという観点から、人を分類しようとする試みです」
人は家族→友人→知人→他人という順に、心理的な距離が遠くなる社会関係を持っている。一方、人は物事に対処する際に、「現在のこと」「2~3日先」「自分の将来」「社会の将来」など、思いを及ぼす時間に幅がある。この「関係軸」と「時間軸」が現在の自分(両軸の原点)より離れれば離れるほど、配慮範囲が大きくなる。
極端に利己的で目先の損得にしか関心がない人は、配慮範囲の面積が小さい(例・犯罪者)。逆に、赤の他人や遠い将来のことまで思いを馳せることができる人は、面積が大きくなる(例・幕末の志士)。
藤井教授が長年の研究から導き出したのは、「配慮範囲の面積が広い利他的な人ほど得をし、面積が狭い利己的な人ほど損をする」という結論だ。
※週刊ポスト2011年9月2日号