震災直後いち早く原発のスイッチを入れろと唱えた森永卓郎氏。節電の強要は、日本経済の崩壊を招き震災復興のマイナスになると、原発再稼働の必要性を訴えてきた。森永氏は、「原発の発電コストは決して安くない」という説にこう反論する。
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反原発派の中には、「原発の発電コストは決して安くない」と主張する人がいる。廃炉費用や使用済み燃料の処理コストが含まれておらず、福島の事故の補償費用が入れば跳ね上がると言う。そして原発メリットは虚構である以上、原発再稼働ではなく、再生可能エネルギーや火力で代替すべきと主張する。
経産省のエネルギー白書2010年版に出ている各電源の発電コストは、原子力がキロワット当たり5~6円で、火力7~8円、水力8~13円とされているが、電気事業連合会の試算では、廃炉費用や使用済み燃料の処理コストはキロワット当たり0.8円程度である。
事故の補償費用にしても、仮に10兆円として30年間で希釈し、東電(2009年度の電気料金収入は4兆5000億円)の原発の発電コストに上乗せしても、キロワット当たり1~2円上がる程度だ。確かに原発のコストは上がるが、せいぜい火力と同程度である。
それなら火力で置き換えればいいというかもしれないが、それは減価償却の問題をまるっきり無視した意見である。再稼働しないのなら、原発は燃料冷却のため電力を消費するだけの存在になるので、早急に廃炉する必要がある。仮に廃炉費用を1基5000億円とすると、54基で27兆円という天文学的な額が一度にかかってくるのだ。
さらに、減価償却の終わっていない原発を廃炉して、一方で供給不足を補うために新たに火力発電所を建設することになる。電気代が暴騰するどころか、中東で戦争でも起きれば燃料の供給途絶もありうる。電力を安定供給するには火力に頼り切るのは危険で、電源の多様化は不可欠である。
※SAPIO2011年9月14日号