厳しい残暑が続く中、オフィスは相変わらずの節電で蒸し暑いまま。その原因を作っている東京電力や経済産業省には抜本的な改革・改善が求められる……はずなのだが、気付かないうちに彼らの既得権が温存される仕組みが、新たに生まれつつある。話題の新刊『「規制」を変えれば電気も足りる』(小学館101新書)を上梓した政策工房社長の原英史氏が、電力問題にまつわる“官僚のウソ”を暴く!
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これまで、役所が強い力を持つ既得権者とつるんで権益を守り、そのツケを消費者や国民に回す、という類の「おバカ規制」をたびたび指摘してきた。そして、この構図が、今回の「東電問題」でも、登場した。
「規制」という範疇からは少し外れるが、今国会で「おバカな法律」が作られた。8月3日に成立した「原子力損害賠償支援機構法」である。
この法律は、「被災者への賠償を確実にする」という謳い文句だが、実際には、「被災者救済」ではなく、「東京電力救済」のためにそのツケを国民に回す法律だ。その問題点について、筆者は成立前から様々な媒体で主張してきた。
ポイントを簡単に紹介しておくと、まず、東京電力は巨額の賠償債務を抱え、誰が見ても債務超過状態だ。債務超過になると、普通、会社更生法などの破綻処理に進み、経営陣は職を失い、株券は紙切れになる。お金を貸していた銀行は債権カットを求められる。株主や貸し手にとっては大損害だが、それが資本主義社会のルールだ。
ところが、政府が提出した法案は、資金を援助して「東京電力を破綻させない」というもの。資金の出所は、主に、東電を含む各電力会社の「負担金」だ。負担金も結局、電力料金の値上げにつながり、つまりは国民負担になる。
これはおかしい。「国民で広く薄く負担しよう」という前に、本来、責任を負うべき人がいる。普通のルール通りに破綻させ、経営陣や従業員、株主、金融機関にまず負担してもらうのが筋ではないか。
政府の案だと、国民負担の額が5兆円ほど膨らみかねない。なぜこうなったかと言えば、東京電力と、そのお仲間たち、つまり経済界、官界、政界などにまたがる“電力村”の面々が、「東京電力救済」を求めたからだ。
※SAPIO 2011年9月14日号