みうらじゅんは、1958年京都生まれ。イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャン、ラジオDJなど幅広いジャンルで活躍。1997年「マイブーム」で流行語大賞受賞。仏教への造詣が深く、『見仏記』『マイ仏教』などの著書もある彼は、遺影写真をあらかじめ撮っておくことを推奨している。
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葬儀会社の人に話を聞くと、生前に遺影を準備している男性は、一割ほどしかいないらしい。ようするに死んでから遺族があたふたと遺影用の写真を探すワケだ。引き伸ばした額入り遺影を通夜までに用意するには、一般的に、死亡から24時間後には写真を葬儀会社に渡さなければいけないという。
そんなタイムリミットの中で、アルバムや、最近はデジカメだからパソコン内のメモリーを、いい写真がないかと探しまくる。ハッキリいって、これじゃあ泣いてる暇もない。 結局、旅行写真や結婚式の集合写真、最悪は免許証の写真を引き伸ばして使うこともあるらしい。
「あの写真、ボケボケじゃない?」
たまに、そんな遺影に出会うが、それはたいていがこのパターンだ。死んだ時に比べ、ずいぶんと若い時の写真にぶつかることもある。
「葬式にまで若ぶりやがって」
てっきりそう思っていた遺影も、実はそんな写真しかなくて、しょうがなくて使ってるらしい。それはまずい! 自分もそうだが、さしあたり親の遺影がそれではまずい。だから勧めたいのが、私のような両親との“遺影撮影旅行”だ。
「お父さん、『イェ~イ!!』っていってみて!」
そういって撮れば、遺影旅行というよりも“イェ~イ旅行”だ! いいでしょ、これ。ただし80歳以上の親限定かな。そこまで生きれば、そろそろそんな話をしても怒られないでしょ。
遺影ひとつで葬式の雰囲気はガラリと変わると、葬儀会社の人もいっていた。それだけ重要なのだ。私のオトンの遺影は、その“イェ~イ旅行”で撮った写真に決定した。いい顔してた、それ……。
※週刊ポスト2011年9月16・23日号