鉢呂吉雄・前経産相の舌禍辞任劇は2つの点で注目しておくべきだ。
第1は大メディアの報道のおかしさ。全国紙を見比べても発言内容がすべて違っていた。
「ほら、放射能」(読売)、「放射能をつけちゃうぞ」(朝日)、「放射能をつけたぞ」(毎日)、「放射能をつけてやろうか」(日経)、「放射能をうつしてやる」(産経)と見事にバラバラだ。
鉢呂氏は、本誌に連載を持つ長谷川幸洋・東京新聞論説副主幹の取材に対し、
「『うつしてやる』とかいった記憶は本当にない。一歩くらい記者に近づいたことはあったかもしれないが、防災服をなすりつけるような仕草もしていない。朝日記事にある『私が線量計をのぞいて数値を読み上げた』というのも間違いだ。数値は喋ったが、線量計は(原発対応拠点の)Jヴィレッジに返却してきた」
と答え、報道に反論した。
しかも発言は当初は報道されず、翌日に鉢呂氏が原発周辺を「死の街」と表現した問題を受けて、ようやく報じられた。実は、批判した記者たちにこそ後ろめたさがあったからだ。
「あの発言は、囲み取材の記者の側から、“大臣、福島はどうでした? (放射能)浴びたんじゃないですか?”といったジョークの“振り”があって飛び出した。だからその場で発言を問題視したり、真意を質したりする記者はいなかったのです」(大手メディア幹部)
しかも、各紙の表現が微妙に違うのは、その場にいなかった社までが、記者クラブの横流し情報に乗って報じた結果のようだ。
「伝聞情報を検証せずに一方向に偏って報じた印象が強い。慎重さも公正さも感じられない報道です」(立教大学メディア社会学科教授・服部孝章氏)
もちろん鉢呂氏の軽率さは否定できないが、それは野田首相にとって予想された問題でもあった。これが第2の注目点である。
「鉢呂さんはもともと失言癖があって、前総理の菅さんは、代表選で自分の選対事務総長までしてもらったのに入閣させなかった。そのかわり、今回の代表選で野田さんに恩を売った見返りに、“鉢呂を入閣させろ”と要求した」(民主党議員)
その「置き土産」が予想通りに仇をなしたというなら、この舌禍事件の責めを負うべきは、菅氏と野田氏ということになる。
※週刊ポスト2011年9月30日号