神宮の杜に、野太い声に交じって一際高い声が響いている。
♪早稲田 早稲田 覇者 覇者 早稲田
角帽姿で早大生を鼓舞する声の主は、木暮美季さん。創部71年の歴史を誇る早稲田大学応援部が、東京六大学に初めて誕生させた女性リーダーだ。学ラン姿で身ぶり手ぶりで応援を鼓舞したり、校旗を支え持ったりする、申し訳ないがかなりむさ苦しい男たちのバンカラ集団に、女子学生が入ったというのだから、画期的な出来事である。
「本当はチアリーダーズに入ろうとしていたんです。でも、春のリーグ戦を見たとき、観客と一体となって応援するリーダーに憧れが芽生えました。止める方もいましたが、幹部の方や監督のご理解もあって正式な入部が決まりました」
応援部の小御門俊郎監督が語る。
「今も150人を超える応援部ですが、ほとんどが吹奏楽団やチアで、リーダーはわずか15人。“キツイ”“厳しい”イメージが時代と合わなくなった。でもこのご時世、女も男も関係ないでしょう。早稲田を愛し、応援に誇りを持てるのなら誰にでも門戸を開こうと」
早大本庄学院のとき応援部チアリーダーパートだった木暮さんだが、実際に神宮デビューを果たすまで、観客や学生がどんな反応を示すか気になって仕方がなかったという。
「六大学の野球ファンが自分をどう受け入れてくれるかも分からない。かなりプレッシャーは感じました。歴史ある応援部に女性の影が落ちたことはない。伝統を壊すことが本当に怖くて夜も眠れませんでした。でも、実際にその場に立つと皆さん、『がんばって』と声をかけてくれて、とても温かかった……」
今では喜々としながら、小さな体を目いっぱい動かして応援に勤しむ。
部の活動は週5日。オフの日の過ごし方は?
「化粧もしないしオフでもこの姿。最近の流行も分かりません。もちろん彼氏もいないし、逆に友達からは『彼女ができる』と言われています(笑い)」
今年の部の目標は「理想追求」という。ならば、彼女の理想を尋ねると、「応援席を一つに繋ぐのがリーダーの仕事。学生を一つにするために、心を開いてもらうために、笑顔を忘れずに応援したい」と、凛とした表情で話す。
これまで日本舞踊を嗜んできた木暮さんにとって理想の異性は、尾崎士郎の『人生劇場』に出てくるような男子というから、草食系男子には頭が痛い。
女性パワーが吹き荒れる昨今─―神宮にも一輪の大和撫子が咲いている。
撮影■藤岡雅樹 文■古内義明(スポーツ・ジャーナリスト)