日本の家庭用ゲーム機が相次ぎ大幅値下げとなった。まず任天堂が8月11日、売れ行きが伸び悩んでいた「ニンテンドー3DS」の価格を従来の2万5000円から1万円も引き下げた。それに対抗してソニー・コンピュータエンタテインメントも「プレイステーション(PS)3」を値下げしたのである。なぜ「DS」「Wii」と大ヒットを飛ばしてきた任天堂が「3DS」で急失速してしまったのか? 大前研一氏が解説する。
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これはまさに、かつてハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した「イノベーターズ・ジレンマ」の典型例だ。つまり、任天堂は革新的な優れた商品を生み出したが、その成功に酔いしれて従来商品を改良することだけに目を奪われ、新しい流れに気づかず、変化への対応が遅れてしまったのである。
今や任天堂の業績は大きく落ち込んで、一時は7万円を超えていた株価も下がり続け、1万円台で低迷している。にもかかわらず従来の延長線上で3DSを発売し、予想以上に販売が苦戦して4割もの価格引き下げに踏み切らざるを得なくなったわけだ。
要は、世界のゲーム用コンソール(ゲーム専用機)市場を席巻したソニーと任天堂(そしてそれに対抗したマイクロソフトのX-box)が過去の成功体験に縛られている間に、世界のゲーム業界では大きなパラダイムシフトが起きていたのである。
彼らは未だにゲームソフトのヒット作が出ればゲーム機も売れると考えているようだが、それは間違いだ。日本勢が得意としてきたコンソール主義の時代は、3~4年前から大きく翳ってきていたのである。
※週刊ポスト2011年9月30日号