領土問題については、これまで一方的にやられっぱなしだった日本。だが最近、日本の外務省の反撃が見られるようになってきた。外務省内部で一体何が起きているのか。ジャーナリストの武冨薫氏がレポートする。
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“竹島紛争”がにわかに高まっている。
仕掛けてきたのは韓国側だ。韓国政府は震災直後の3月末に竹島でヘリポートの拡張工事に着手し、6月には大韓航空機が通常の飛行ルートを外してわざと竹島上空をデモフライトする「領空侵犯」事件が発生、8月には韓国議会の『独島領土守護特別委員会』が竹島での議会開催(いったん見送り)と与野党党首の視察を計画し、その間に韓国の野党議員がロシア経由で日本の「北方領土」を訪問するなどからめ手も使ってきた。
「韓国は大震災という日本の政治空白をストレートに突いてきた。今なら日本が譲歩すると読んでいた」(外務省中堅官僚)のである。しかし今回、日本政府は今までにない“コワモテ”の態度をとった。
大韓航空機の領空侵犯では、松本剛明・前外相が「領空侵犯だ」と抗議して外務省職員に1か月間、同航空会社の利用を禁止し、外務省主催レセプションへの同社関係者の招待を止めた。営業的にほとんど実害はないが、日本の外務省が韓国にはっきり「報復措置」をとったのは近来にない。
さらに、外務省は竹島領有問題を国際司法裁判所に付託する方針を検討中だ。韓国に付託を申し入れれば、かつて大平正芳・外相が韓国に提案して以来、49年ぶりになる。
日本の反撃は領土問題だけではない。韓国が国際水路機関(IHO)に提起している「日本海」の呼称変更問題(韓国は「東海」を主張)でも、この8月、米国と英国はIHOに呼称を「日本海」に単独表記すべきという公式意見書を提出し、日本が巻き返しに成功しつつある。
「領空侵犯問題については、菅前総理の求心力が下がり、官邸は震災と原発事故にかかりきりだったから、韓国への対応は官邸主導ではなく、松本剛明・前外相―高橋千秋・前副大臣ラインが『毅然とした態度を取るべき』と指示して報復措置を決定した。ある意味、官邸の機能不全が対韓姿勢を変える転機になった」(民主党国際局のベテラン議員)と見られている。
そしてそれを後押ししたのが佐々江賢一郎・外務事務次官だった。佐々江氏は韓国が竹島海域での海洋調査を実施して日韓に緊張が高まった自民党政権下の2006年当時、アジア大洋州局長として韓国との交渉にあたって苦汁をなめた経験を持つ。領空侵犯事件の前日に、韓国の孟亨奎・行政安全相が竹島に上陸した時も、佐々江氏は「極めて遺憾」と抗議している。
国際社会に日本の立場を主張するのは「普通の外交」だが、外務省がそこに立ち戻ろうとしているのは領土問題で他国に押しまくられ、劣勢に立たされていることへの反省があるからだ。
外務省の中堅官僚が語る。
「海洋調査問題で日本は結局、韓国の調査を止められずに譲歩を迫られた。佐々江さんは領土問題の国際社会へのアピールの必要性を痛切に感じ、国際法局と総合外交政策局を中心に呼称問題を有利に運ぶ戦略を立てて、タイミングをはかっていた。『大震災で日本に国際社会の注目が集まっている今がチャンスだ』、と米英をはじめIHO理事国に働きかけを強め、領空侵犯でも松本前外相の背中を押した。
省内には、小和田恆・元国連大使が国際司法裁判所の所長を務めている2012年までに、竹島問題を同裁判所に提訴すべきという言わば“領土派”が声を強めている。裁判には韓国の同意が必要で、応じる可能性は極めて低いとはいえ、韓国に提案するだけでも現在の不法占拠に国際社会の関心を高めることができる」
※SAPIO2011年10月5日号