原発事故以降、戸惑う保守を尻目に、従来、反原発を唱えていた左翼が元気だ。その実情について、左翼の動向に詳しいジャーナリストの野村旗守氏がレポートする。
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少々大袈裟に言えば、ジャスミン革命もかくや、と思わせる光景が出現したのは春から初夏にかけてのことだった。
東京・高円寺でリサイクルショップ「素人の乱」を営む松本哉氏(36)らが「原発やめろデモ」を呼び掛けた。松本氏は既存の組織に属していないが、靖国神社反対を唱えるなど自他ともに認める左翼で、杉並区議選に出馬したこともある。その松本氏が反原発デモをネット上で呼びかけたところ、主にツイッターを媒介として人が人を呼び、1回目、4月10日の高円寺でのデモ、2回目、5月7日の渋谷でのデモには、主催者発表でそれぞれ1万5000人もの人が集まった。そして「素人の乱」や環境保護団体「グリーンピース」などが連携して呼び掛けたのが「6・11脱原発100万人アクション」で、その日、全国100か所以上でデモや集会が行なわれ、主催者発表で8万人近くが参加した。
もちろん、参加人数の実数は主催者発表の半分程度と思われ、参加者全員が左派であるとも限らない。それにしても、今の時代には珍しい動員力である。
今、ネット上では〈さようなら原発 1000万人アクション〉なるキャッチフレーズが喧伝されている。〈「さようなら原発」一千万人署名市民の会〉なる“市民団体”が主催し、大震災が発生して半年目にあたる9月11日から19日までの〈脱原発アクションウィーク〉に、全国各地で集会、パレード、講演会などを行ない、19日に東京・明治公園で〈さようなら原発 5万人集会〉を開こうとしている。主催の“市民団体”の連絡先は、総評会館1階にある原水爆禁止日本国民会議(原水禁)。言うまでもなく社民党系の反核団体だ。
たとえ掛け声にせよ、100万、1000万という数字が、脱原発、反原発という、安保闘争以来、久々に現われた大きな“反体制ネタ”に左派の気分が高揚していることを物語っている。
また、脱原発、反原発を明確に打ち出している老舗の左派系論壇誌『世界』も、品切れ店が続出するほど売れ行き好調だという。
※SAPIO2011年10月5日号