「なくて七癖」――とはよくいわれることだが、「癖」とはいかにして身についてしまうのか。人間の癖に詳しい心理学者で、『改癖術』(マガジンハウス刊)などの著書がある株式会社東京心理コンサルティング代表の伊東明氏が解説する。
「子供の頃から親の言動を身近に見ているうちに、知らぬ間にそれを“学習”してしまうことが多いのです。本能が原因になっている癖もあります。例えば、他人の前で腕組みをする癖は、自分を外敵から守りたいという本能が原因です」
たくさんの癖を抱えていながら、本人は気づいていない場合が多い。まして、そうした癖が他人にどういう印象を与え、それが自分にとってどのようなプラス、マイナスを生んでいるかには無頓着だ。
「実は、多くの人が“悪い癖”の繰り返しにより、多大な損を被っているのです」(前出・伊東氏)
逆に癖の改善を強く自覚し、成功を獲得した人もいる。アップルを世界一の企業に育て上げたスティーブ・ジョブズもその一人だ。
ジョブズはiPadなど新商品を発表する時、大きな会場で盛大に自らプレゼンテーションを行なってきた。たった5分間のプレゼンにも、準備に数百時間を費やすという。
普通、多数の聴衆を前にすると、人間は棒立ちのように両腕を体の両脇に垂らしてしまいがちだ。そのポーズは緊張しているように見えるため、堅苦しく感じさせてしまう。ジョブズはそういう癖に陥らないように、意識的に身振り手振りを交えて喋るように訓練した。それによって親しみやすいイメージを生み、カリスマ性を獲得したのである。
※週刊ポスト2011年9月30日号