中国ネットの標的となったのは、貧しい県の副県長の娘が手にする、エルメスのバッグとルイ・ヴィトンのトランクだった。これが中国版ツイッター「微博」で話題となると、全国規模の攻撃が集中したのだ。いま、中国社会で何が起こっているのか。ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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中国のネットで典型的に見られる“仇富・仇官”(富裕層や官僚など権力者に対する怨みや反発を表現する)の傾向が、このところさらに過激さを増している。
この9月、槍玉にあがったのは中国のなかでも貧しい地域として知られる貴州省錦屏県という小さな県の副県長である。
副県長に対する攻撃がネット上で始まったきっかけは、彼の娘の一枚の写真である。右手にエルメスのバッグを提げ、左の手でルイ・ヴィトンのトランクを引いている姿が映ったものだが、これが中国版ツイッター「微博」で話題となると全国規模の攻撃が集中したのだった。
攻撃の中身は要するに「こんなに貧しい県の副県長の娘がなぜこんな高価なモノが持てるのか?」というものだ。
慌てた副県長の娘は、自分が持っているブランド品はすべてネットショップ「淘宝」で買ったコピー商品であると釈明。わざわざ購入時の領収証まで公開して、写真に写っていたバッグが二つともわずか90元前後(約1170円)だったと説明したのである。
だが、その後もネットでの攻撃は一向に収まらず、とうとう現地の規律検査委員会(党員の規律違反を取り締まる組織)が調査に乗り出すまでの事態となったのである。
ネットで全国の人に向けて「実は、私の持っていたバッグは全部コピー商品」と暴露することも惨めだが、それよりも驚きは泣く子も黙る規律検査委員会がわざわざ調査に乗り出したことだ。
当局はよほど民の怒りが怖いらしい。