埼玉県朝霞市の国家公務員宿舎に関し、その存在の意義について様々な意見があがっている。結局「凍結」となったが、その結論に至るまでには様々な右往左往があった。話題の新刊『「規制」を変えれば電気も足りる』(小学館101新書)を上梓し、お役所が差配する「規制」の裏のウラまで知り尽くす元経産省キャリア官僚の原英史氏(現・政策工房社長)が、公務員宿舎に隠れたカラクリを解説する。
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野田首相に言いたいことを一つ挙げれば、埼玉県朝霞市の国家公務員宿舎の「復活」問題だ。
国家公務員宿舎は、民間企業の社宅にあたるもの。民主党政権になって、事業仕分けで取り上げられ、すでに契約済みだった朝霞宿舎(朝霞基地跡地に新設予定)を含め、「凍結」とされた。
ところが、その後、国有財産を所管する財務省のもとで再検討がなされ、朝霞などの一部宿舎は工事再開を決定。9月1日、朝霞で工事着工となった。「凍結」から「復活」したわけだ。政府の言い分は、
●事業仕分けではあくまで「凍結」しただけ。財務省で政務三役を含めて再検討した。
●再検討の結果、「5年間で15%削減(21.8万戸から18.1万戸に)」とし、真に必要な宿舎に絞って再開を決めた。
●朝霞のケースでも古い宿舎を売却して統合するので、10億~20億円の財源が生まれる。
というものだ。だが、国家公務員の総数は、自衛官などの特別職30万人を含めても、せいぜい60万人。18万戸もの専用住宅が「真に必要」だろうか?
緊急参集が求められる職種などの特殊ケースならわからないでもないが、そんなケタの数とは考えがたい。「財源が生まれる」というのも、新しい宿舎を建てなければもっと大きな財源が生まれるのだから、詭弁にすぎない。
役人たちが、こうまでして、公務員宿舎を守ろうとするのはなぜなのか。結論から言えば、「ヤミ給与」だからと考えればわかりやすい。
例えば、臨海副都心近くにできたばかりの東雲住宅(東京都江東区)の場合、
●1K(約25平方メートル)月額1万8297円
●1DK(約35平方メートル)月額2万3837円
●3LDK(約70平方メートル)月額4万8591円
という格安家賃(ちなみに家賃は国家公務員宿舎法施行令13条をもとに決められる)。近隣の民間賃貸住宅なら、それぞれ、10万円前後、11万~12万円、20万円前後だから、月に数万から十数万円という高額な住宅手当をもらっているようなものだ。
公務員の給与は、本来、人事院勧告を基礎に決められる。人事院は、国家公務員法28条に基づき、官民の給与を精密に比較し、格差を埋めるよう勧告を行なっている。少なくとも制度上は、厳密に「民間並み」になる仕組みなのだ(なお、人事院調査がお手盛りで、実は民間並みよりずっと高いという問題もあるが、今回は脇に置く)。
ところが、それとは別枠で、「公務員宿舎」のかたちで、月十数万円ものヤミ給与が支払われている。こんな権益は、誰だってそう簡単に手放したくはない。役所に検討を任せたら、「現存する宿舎のほとんどは“真に必要”」となるに決まっているのだ。
※SAPIO2011年10月26日号