民主党は「無駄な公共事業」の筆頭に群馬県・八ッ場(やんば)ダムを挙げ、鳩山内閣の国交相だった前原誠司氏は「建設中止」を宣言した。 しかし、野田政権が誕生すると、国交相には同省OB、しかもダム事業を担当する河川局出身の前田武志氏が就任する。
「前田大臣の就任は、ダム建設のゴーサインと受け止めている。大臣が再開宣言をするのは時間の問題だよ」(国交省幹部)
本誌は同ダム建設を示す国交省極秘資料を入手した。その資料は、総事業費4600億円の使途内訳だ(以下)。
●八ッ場ダム建設事業費の主な内訳
【ダム本体工事費】808億円
(建設費、貯水池保全工事など)
【用地費及び補償費】1236億円
(立ち退き住民の土地買い上げなど)
【補償工事費】1230億円
(代替地造成、周辺道路・鉄道整備など)
【測量設計費】722億円
(環境調査や地元説明費用など)
【(上記を足した)総事業費】4600億円
巨大ダムの工事費が最大と思われがちだが、その額は808億円。全体の20%未満に過ぎない。
最大の出費は、「用地費及び補償費」の1236億円。これは宅地や農地、立木などの買収費用と引っ越し費用などを合わせた金額で、代替地の造成事業などは含まれていない。水没する地域の住民は340世帯。これに道路の付け替えなどで立ち退きを迫られる住民を合わせると、補償対象となるのは470世帯。実に「1世帯あたり約3億円」の補償金が支払われる計算なのだ。
この額を移転当事者以外の地元住民は全く知らないようだった。地元の商店主は金額を聞いて絶句した。
「たまげるねぇ。オラっちなら旅行に行っちゃうよ。補償金もらって前橋とか高崎に家を買った人は何人もいるし、上(代替地)に越した人は豪邸建てとる。“死ぬまで面倒見ろよ”と、息子にポンと大金渡した人もいるみたいだけど、そんな額なら納得だねェ」
別の住民は、「ウチも水没させてくれればよかった」と率直な感想を語った。
まさに至れり尽くせりだが、住民が大喜びで代替地に移転しているわけではない。代替地に住む主婦は、記者に不満をぶつけてきた。
「3億円? 冗談じゃないよ。土地持ちはたんまり受け取るでしょうけど、ウチはもともと借地住まいだったから、補償金なんて雀の涙。で、代替地で土地を持とうとしたら、バカ高い値段で買わされてスッカラカンよ。街灯がないから夜は真っ暗だし、店もないから不便で仕方ない」
※週刊ポスト2011年10月21日号