現在1ドル=75円台という空前の円高が続いている。この状態は日本経済にどのような影響を与えるのだろうか? 大前研一氏が解説する。
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円高が続いている。一部では、40年前の日米貿易摩擦当時のメンタリティで、今の貿易不均衡を是正するには円高に誘導するしかないという論調を見受けるが、1ドル=360円が75円台になっても日本は貿易黒字なのだから、そういう19世紀の経済学に基づいた時代錯誤の議論は、いい加減にやめるべきである。
また、円高になるたびに騒ぐ経団連などの産業界も同様だ。円高は1985年のプラザ合意以降、四半世紀にもわたって続き、1995年には80円割れも経験しているわけだから、今ごろ大騒ぎしているような会社は潰れても当然だ。
実際、多くの日本企業は、すでに円高対策を取っているので、今回の局面でも大きな影響はない。たとえば、タイヤメーカーのブリヂストンの荒川詔四社長は「グローバルに各地でバランスよく製造しており、今の円高水準でも当社にそれほど大きなダメージはない。円高への耐性は高く、足元の為替動向に振り回されない経営となっている」と述べている。
もともとタイヤの原材料は輸入品で円高メリットを受けるという側面もあるが、同社は海外生産比率が約7割に達するグローバル化を進めた結果として、為替で一喜一憂しない仕掛けを作り上げたわけだ。
また、GDPに対する為替の影響は、輸出と輸入の差による。いうまでもなく円高は輸出が輸入より圧倒的に多いとデメリットになり、その逆であればメリットになる。しかし、現在の日本はGDPの比率における輸出と輸入の差が1%程度しかないので、実は日本経済そのものは、為替の影響をあまり受けない構造になっているのである。
※週刊ポスト2011年10月21日号