野田佳彦政権が誕生した直後から、銀行が不良債権処理を急いでいる。いま何が起きているのか? 大前研一氏は、中小企業の事業主や住宅ローンの借り手を支援する目的で2009年12月に施行された「モラトリアム法(中小企業金融円滑化法)」の期限切れが、来年3月末に迫っていることと密接に関係があると解説する。
* * *
モラトリアム法は中小企業などに対する貸し渋り・貸し剥がし対策として当時、金融担当相だった亀井静香・国民新党代表のごり押しによって成立した法律で、中小企業の経営者や住宅ローンの借り手から返済の一時猶予や金利引き下げなどの相談があった場合、それに応じる努力義務を金融機関に課すとともに、借り手が破綻した場合は貸し倒れの40%を公的に保証する、という内容だ。
当初、2011年3月末までの時限立法だった同法は、1年間延長されて現在に至っている。
では、モラトリアム法が再延長されないで、来年3月末に終了したら何が起きるのか? 中小企業向けに実施されている45兆円の中には資金回収が困難な不良債権(モラトリアム法施行の前までは要管理先や破綻懸念先に分類されていたものを含む)が、相当あると思われる。
モラトリアム法という“生命維持装置”を利用することで延命されてきた中小企業は、借りていた金額の元本と金利の返済を再び求められれば、即刻ご臨終(倒産)となるだろう。
なんとか生き延びたとしても、モラトリアム法が施行されて以降、日本の景気が良くなったり、需要が上向いたりしているわけではなく、逆に円高や東日本大震災で業績が悪化している中小企業が増えているので、相当数の会社が正常先から要管理先や破綻懸念先に変わる(戻る)と考えられる。
そうなれば、銀行は巨額の貸倒引当金を積み増さねばならなくなる。これは、せっかく経営が改善したかのように装った銀行にとっては避けたい事態だ。資本が脆弱な地方銀行の中には、貸倒引当金の重さに耐え切れず、破綻の危機に追い込まれるところが出てくるだろう。
だから銀行は、要管理先や破綻懸念先に分類されて貸倒引当金の積み増しが必要となる中小企業については、できるだけ来年3月末までに破綻処理をしてしまおうと躍起になり、担保の不動産を投げ売りしているのだ。来年4月以降に貸し倒れになれば100%銀行の負担になりかねないが、モラトリアム法の期限内であれば貸し倒れになっても40%は国が負担してくれるからである。
ということは、これから半年間、銀行の貸し渋り・貸し剥がしが復活し、中小企業の倒産が激増することが予想される。そして国が負担する40%のツケは当然、国民に回ってくる。言い換えれば、いま銀行は国民にツケを回そうとしているわけだ。
要するにモラトリアム法は、本来なら潰れていたはずの中小企業にひと時の夢を見させたにすぎず、夢から醒めた時には45兆円分の“時限爆弾”が炸裂するのである。しかも、それを避ける方法はない。
資本主義社会は「潰れるものは潰す」というのが基本ルールなのに、それを逸脱し、社会主義的な法律を作って問題を先送りにした以上、どこかでシワ寄せが来るのは当たり前なのである。
※週刊ポスト2011年10月28日号