みうらじゅん氏は、1958年京都生まれ。イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャン、ラジオDJなど幅広いジャンルで活躍。1997年「マイブーム」で流行語大賞受賞。仏教への造詣が深く、『見仏記』『マイ仏教』などの著書もある彼が、お経について考察する。
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人間誰しも、必ずや自分の葬儀というものがやってくる。
結婚式をあげたことのない人はいるだろうが、葬儀はたいていの人が行なう人間にとってもっともポピュラーな“式”で、今の日本では仏式による葬儀が一番多い。
仏式の葬儀では、僧侶が読む“お経”が中心になる。葬儀はお経で始まりお経で終わる“読経式”のイメージすらある。僧侶が何やら低い声で唸っているのだが、お経ってそもそもどんな内容なのだろうか。
私は京都の仏教系の中学・高校に通っていたので、実家が寺院で父親が住職という友人が数多くいた。
今では、それぞれの寺院を継いで立派に住職を務めている彼らに聞いたことがある。お通夜や告別式ではめったにないらしいが、法事の席では、お経の意味について聞いてくる人たちがいるらしい。
追々解説していくが、お経の意味するところを説明するのはかなり難解だ。だから、若い修行中の僧侶にとって、お経の意味を尋ねられないようにすることはけっこう重要なのだ。
読経が終わり次第、ヘタなことを聞かれる前に、こんな話題を振ることを決めている僧侶もいるらしい。
「いやぁ~。それにしても今年のタイガースはどんなもんでっしゃろ」
関西の人間はタイガースの話をすれば、食いつきがいい。とにかくタイガースの話をするようにと、私の友人は父親に教わったという。
それでもお経の意味について知りたいと思う人はいる。「あの~どういう意味でっしゃろ、今日のお経?」非常事態である。しかし、慌ててはいけない。ここでもとっておきの決めゼリフがあるのだ。
「仏のお導きでございます……」とりあえずそういっておけ! と私の友人は父親のお導きをいただいたそうである。
※週刊ポスト2011年10月28日号