東京都世田谷区の民家で見つかった「放射能ビン」騒動は、当初、“東京ですごいホットスポットが見つかった”と、市民運動家や反原発団体を大騒ぎさせた。
市民団体の調査がきっかけで、民家前の道路で最大3.35マイクロシーベルト/時の放射線が計測され、民家敷地内では8.4(同)、壁面で18.6(同)という高線量も検出された。
原因は床下に保管されていた放射性ラジウムの入ったビンで、夜光塗料の原料だったと推定されている。
この騒ぎはいくつかの示唆的な教訓を残した。
第一に、相変わらず「高濃度」「基準を上回る」「通常の○倍」といった、国民にはほとんど意味のない修飾語をつけて報じる大マスコミの勉強不足である。
本誌・週刊ポストは何度も書いたが、改めてここで、最低限知っておくべき「危険な被曝か、そうでないかの判断基準」を記す。
一般のニュースで使われる「マイクロシーベルト/時」という空間線量率を表わす単位から、自分がどれだけ被曝するかを求めるには、その場所に居続けたと仮定して、「8.766」を掛けると「年間被曝量」を「ミリシーベルト」で知ることができる。
今回の場合、この道路に居続けた場合の年間被曝量は、3.35×8.766=29.3661ミリシーベルトになる。
安全な被曝量は「年間1ミリシーベルト以下」とされるから、30ミリ近く被曝することは問題である。ただし、この場所に24時間365日、居続ける人はいない。毎日この道を通り、行きも帰りも必ず1分間立ち止まるとしても、年間被曝量は約0.04ミリにすぎない。これは胸のレントゲン検査1回分程度の被曝量であり、もちろん安全基準上限を十分に下回る。
ちなみに、この民家に暮らしていた老女は、50年以上にわたり、推定で年間30ミリの被曝をし続けたとみられるが、90歳を超えて健在で、がんにもかかっていないそうだ。
これも本誌は何度も報じたことだが、「年間1ミリ」という基準は、自然放射線(世界平均で年間2.4ミリ)や医療放射線(日本人の平均で年間2.3ミリ)を除いた被曝量の「望ましい値」である。実際には自然放射線が年間10ミリを超える地域もあるし、宇宙線を多く浴びるパイロットのように、職業によって年間5ミリ程度の被曝をする者もたくさんいる。
それらの人たちへの疫学調査により、がん発生率や遺伝的異常の増加が見つかった例は世界に一つもない。だから、年間30ミリを浴び続けた老女がいたって健康でも、何ら驚くことではない。
※週刊ポスト2011年11月4日号