中国の軍事力が米国をも凌ぐほどに進化・増強している。中国の軍事増強の目的はアジアの覇権をめざすためのものであり、人民解放軍の任務も多様化してきている。だが、中国の最大の目的が台湾併合であることはいまなお変わっていない。中国は「核心的利益」台湾をどう攻略しようとしているのか。ジャーナリストの古森義久氏が解説する。
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中国軍は実際に台湾攻略のシナリオとしてどんな作戦を考えているのか。現実の台湾有事となると、米軍の対応や台湾側の抵抗の度合いなど複雑な要素がからむため、中国側も複数の選択肢を準備しているようだ。
このへんの米側の読み方を国防総省顧問のマイケル・ピルズベリー氏が語った。同氏はレーガン政権の国防副次官などを務めた中国軍事研究の長老である。
「国防総省の見解として話しますが、中国はいざ軍事力で台湾の攻略から併合を目指すことが必要だとみなせば、まず全面的な上陸侵攻作戦を実行せずに目的を達することを狙うでしょう。
それはふだんの演習の拡大という形で台湾側が実効支配する東沙諸島、澎湖島、太平島などを一気に軍事占領する作戦です。その侵攻で軍事力の強大さと政治決意の強固さを誇示すれば、台湾が屈服すると期待するわけです。流血も少なく、中国側の抑制を外部に印象づけられるかもしれません」
軍事コストの最も低い台湾攻略法だろう。
だがピルズベリー氏によれば、この方法は台湾本島全面攻撃の予告ともなり、台湾側の官民をかえって団結させる可能性もあるという。
「第二のシナリオは海上封鎖です。艦艇による伝統的な海上封鎖は台湾を締めつける威力は絶大ですが、中国海軍の負担も過大となりうる。次善の封鎖策として台湾の港や空港を閉鎖させるための空中封鎖、ミサイル攻撃、機雷封鎖なども中国軍の戦略家たちは提案しています。
中国当局は台湾に向かう各国船舶にまず中国本土に寄港させて、検査を求めるという措置もとれる。中国はさらに台湾の各主要港近くの海域で軍事演習を実行し、事実上の封鎖をもたらすという選択もあるでしょう。中国は1995年から1996年にかけての台湾への威嚇ではこの措置をとり、大型船を実際に中国本土に迂回させました。
第三は軍事力の限定的な行使、非戦争の選択です」
この第三のシナリオは中国軍部が台湾に対し破壊的、懲罰的な軍事行動を限定的に仕かける作戦だという。同時に台湾の政治、軍事、経済のインフラに対するコンピュータ攻撃や秘密の攪乱工作をもともなう。
この種の工作は台湾住民の指導部への信頼を失わせることを目的とする。また中国人民解放軍の特別部隊が台湾に侵入して、軍事的な破壊工作を実施する。要するに中国軍自体による台湾内部攪乱作戦ともいえるという。
ピルズベリー氏はさらに中国の台湾攻略作戦の形態について語った。
「第四の攻撃方法は空爆とミサイル発射の同時実行です。配備された短距離弾道ミサイルの一部と拠点限定の空爆により台湾側の空軍基地や通信基地、防空網、宇宙資産などを重点的に機能破壊していく。台湾の軍や政治の指導層を骨抜きにして、一般住民の戦闘意欲をも削いでしまおうという意図です」
ここまでくると、実態はもう戦争である。そしてピルズベリー氏が最後にあげた中国軍の作戦は次のようだった。
「第五の戦略は中国軍による台湾侵攻上陸作戦です。海と空から電子戦争をも含めての大規模な上陸作戦展開のシナリオです。中国軍はそのために水陸両用車や揚陸艇、戦車輸送艇など合計46隻を保有しています。
目標としては台湾西海岸の北と南の特定地点に守備軍の防衛線を破って上陸し、橋頭堡を築き、そこから台湾全体の重要拠点を攻撃し、占領していくことです」
ピルズベリー氏によれば、こうした台湾攻略の多様な軍事シナリオは中国軍の参謀たちが実際に論文などで明記しているのだという。
※SAPIO2011年10月26日号