ギリシャの財政問題に端を発するユーロ危機がここまで深刻化する以前から、現在の事態を予見していた人物がいた。1997年、旧大蔵省の証券業務課長時代に山一証券の処理に携わり、2008年にはIMF(国際通貨基金)日本代表理事としてリーマン・ショックの対応にあたった、小手川大助氏(60)である。金融危機に辣腕をふるってきた同氏が、ユーロ危機の本質を解説する。
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ユーロの金融危機回避策の最大の障害となっているのが、ギリシャの“ひどさ”だ。本当は、ギリシャに求められている財政再建計画は、実現不可能なものではなく、ラトビアなどもっと厳しい財政再建を強いられて頑張っている国はある。それなのにギリシャは、「いくらカネを注ぎ込んでもダメかもしれない」と思わせるほど、当事者能力がない。
財政再建は、歳出を減らし歳入を増やすしかないが、公務員が多くて歳出はなかなか減らない上に、歳入=税金を集めるシステムが不完全だ。
ギリシャは貧富の差が激しく、富裕層は税金をほとんど払っていないのが現実である。アテネの最高級住宅地にはざっと250軒の豪邸があり、その多くがプール付きだというが、うち税金を払っているのは3軒のみだとされる。
また、「3分の1ルール」などと言われるものが罷り通っている。これは、例えば100万円の税金を払わなければいけないという時、3分の1を実際に納税し、残りの3分の1は賄賂に回す。そして最後の3分の1は払わずに済ませるのだ。
おまけに閣僚を含め政治家は二世、三世の米国留学経験者ばかりで、貧しい庶民は「なぜ海外資産の多い金持ちを優遇するのか」と反発を強めている。ネーションステート(国民国家)としての一体感がなく、この事態に国を挙げて対処できるとは到底思えない。
実際にギリシャがデフォルト(債務不履行)すれば、ユーロ安が進んで1ユーロ=100円を一気に割り込むだろう。さらにギリシャ国債を多数保有するヨーロッパの金融機関のバランスシートが急激に悪化し、同じく債務問題を抱えるイタリア、スペインに危機が波及する。
両国合わせて2兆2000億ユーロの債務を抱えており、3000億ユーロのギリシャとは桁違いのため、この2国が倒れるとヨーロッパの金融危機が雪崩を打って拡大し、世界同時不況に陥りかねない。これが考えられる最悪のシナリオだ。
※SAPIO2011年11月16日号