東京地検特捜部は10月13日、暴行容疑で告発されていた前・水戸地検検事正の粂原研二氏(現・最高検検事)を不起訴処分にしたと発表した。不起訴の理由は「被害者が処罰を望まなかった」からだという。
だが、この「事件」は本当に起訴するに値しないものだったのか。そして起訴を望まなかった「被害者」とは何者なのか――。そこには「記者クラブの掟」に従い、国民を裏切る大メディアの姿が浮かび上がる。
事の発端は今年の2月14日にまでさかのぼる。茨城県水戸市内のスナックで起きた「暴行事件」について、当時現場に居合わせたママがこう証言する。
「あの日、検事正は事前に別の場所で飲まれていたようで、夜の8時30分ごろにほろ酔いの状態で部下の検事2人を連れて3人でお店に来ました。後に2人の検事が合流し、奥のボックス席で飲んでいました」
水戸に赴任した昨年7月頃から、週に一度は店に顔を出していたという粂原氏。騒動のきっかけは、カウンターに座って飲んでいたママの友人女性Aさんを粂原氏が気に入り、「1人で飲むより、こっちで一緒に飲もう」と誘ったことだった。
ママが続ける。
「Aさんがボックス席に座り直すと、検事正は『横顔は良かったけど、正面から見ると全然ダメじゃないか』といって、Aさんの頭をひっぱたいたんです。平手で頭頂部を叩かれたAさんを横で見ていた部下の検事が『叩かれたら叩き返さなきゃ』と合いの手を入れたので、Aさんは即座に検事正を同じように叩き返しました」
この応戦が遺恨となったのか、粂原氏がカラオケで熱唱する最中におしゃべりをしていたAさんに対して、「人が歌っている最中は、ちゃんと聞け」といってマイクでAさんの頭を叩いたかと思えば、部下の検事の尻を蹴飛ばしたり、見かねて止めに入ったママの腕を捻ったりするなど暴れ放題。グラスは割れ、ビール瓶は床に散乱するというご乱行に発展した。
実は、粂原氏と酒席を共にしたのは部下の検事4人だけではなかった。検事らに電話で呼び出され、大手マスコミの記者たちが参加していた。
「騒ぎが起こる前に、記者3人がお店にやって来た。検事正は常連でしたが、3人は初めてのお客さんでした。あの騒ぎになって、記者たちは先に店を出ていったことを覚えています」(前出のスナックのママ)
検事正といえば、地方検察庁のトップである。「検察組織は酒癖が悪いなど素行に問題がある人物は後のトラブルを考慮して出世させないことが多い」(検察OB)といい、検事正まで登りつめた人物の不祥事は極めて珍しい。また、“法の番人”の中でもエリートである粂原氏の社会的責任が重大であることはいうまでもない。
検察OBの落合洋司・弁護士はこう指摘する。
「警察に通報されればその場で現行犯逮捕される事案です。地方検察のトップという立場を考えれば、一般人よりもより厳正に対処されるべきもので、起訴されてもまったくおかしくない」
※週刊ポスト2011年11月11日号