11月6日、長崎県・五島列島の鳥島近海で発生した中国漁船の領海侵犯事件。海上保安庁の巡視船は領海深く侵入してきた中国漁船を4時間半にわたって追跡し、体当たりして停船させ、立ち入り検査を忌避したとして船長を逮捕した。
官邸は事態の悪化を恐れ外務省の杉山晋輔・アジア大洋州局長を8日に緊急訪中させた。漁船問題が話し合われたことは間違いなく、政府は翌9日に中国人船長を罰金30万円でスピード釈放したのである。
中国が今回、日本政府と水面下の“手打ち”で収めたのは、欧州の金融危機をめぐる打算があったとみられている。
EUの最大貿易国の中国は金融危機の影響をまともにかぶると見られているが、胡錦濤・国家主席はG20でのサルコジ大統領との会談(11月4日)で金融支援を求められ、「ギリシャ問題が片付かなければ出せない」と断わっている。
その肩代わりをさせられるのが日本だ。EUの欧州金融安定ファシリティ(EFSF)は11月8日に金融危機対策のため30億ユーロを起債し、日本政府が1割(約320億円)を引き受けた。
「中国はEFSFの債券の2割近くを購入してきた。これ以上のリスクを回避したがっており、日本に購入積み増しを求めている。だから、いまは漁船問題くらいで強硬姿勢を取ってこないだろう」(民主党幹部)
つまり、中国側に責任がある領海侵犯事件なのに、日本が国民の税金で“賠償金”を払って“示談”にしたに等しい。
さらに民主党のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)推進派の親米派議員の中には、「中国側がまたぞろ強硬姿勢を取ってきたら、それこそ、『あんな中国との経済連携は無理。日米経済同盟を強化すべきだ』とTPP反対派を封じ込める格好の材料になる」と、中国の過剰反応を期待する危機便乗型資本主義(ショックドクトリン)を唱える者さえいた。
いずれも国土と国民の生命・財産を担っているという責任感の欠片も感じられない。これが米国と中国の双方に尻尾を振る尻軽政権の実態である。
※週刊ポスト2011年11月25日号