経産省と電力業界が、震災の反省をしないまま「9電力会社の独占体制」「原発推進政策」の2つを維持しようと動いている疑いが極めて濃厚である。
本誌は震災直後の4月29日号で、政府と東電が喧伝した「電力危機」「停電パニック」は、“だから原発は必要だ”という世論をつくるための偽装であることをスッパ抜いた。根拠となったのは、政府・東電が隠していた電力供給能力を示す資料だった。
東電は、実際には使える揚水発電(※)や休止中の火力発電を供給能力からあえて外して電力不足を演出していた。事実、本誌がそう報道した直後に政府・東電は供給能力を上方修正せざるを得なくなり、結果的にあんなに「絶対起きる」と大マスコミが報じた夏の大停電は起きなかった。
今、関西電力と九州電力で「冬の10%節電」「5%節電」が盛んに喧伝されているが、半年前の東電と全く同じ構図がある。
関電は毎年3月に、その年の「ピーク見通し」を予測している。それで問題が起きたことはないにもかかわらず、なぜか今冬はその予測と厳冬だった昨年の実績値を期間ごとに比べて「多い方を今冬の需要想定とする」というルールをわざわざ用いて、予測値を引き上げる細工を施しているのである。
さらに、やはり今回も揚水発電を過小に見積もっており、「冬は揚水に使う夜間電力に余力がない」(関電地域共生広報室)と言い訳する。また、火力発電の供給能力も、本来の出力合計1690.7万kWと関電の見積もりである1461万kWの間には約230万kWもの差がある。だいたい、もともと電力が余っているといわれる中国・四国電力から受電したり、東電がそうしたように民間の自家発電を最大限利用したりすればピークは乗り切れるはずなのだ。
その一方で、節電を訴える同社資料では、わざわざ「発電所の定期検査の時期を見直して供給電力をかなり上積みした」「だけど足りないから節電を」と恩着せがましく書く。“原発があれば”と思わせたい企みがプンプンと匂う。
九電も似たようなものだ。揚水発電のカウント不足もさることながら、先日、多くの批判を無視して再稼働した玄海原発の供給能力を全く算入していないというインチキ予測なのだ。
同社報道グループは「再稼働はしたが、12月に定期検査に入るのでカウントできない」という。ならば再稼働などしなければいいし、現に関電では火力発電所や水力発電所の検査の先送りで電力を確保している。ご都合主義ここに極まれりだ。
要するに、またも国民を停電パニックで脅し、自分たちの利権と政策を維持しようという「電力マフィア」のから騒ぎなのだ。
居座り続ける九電社長だけではない。枝野大臣を筆頭に、すべての電力マフィアを一掃しない限り、この国の電力政策が改まることはないことがわかった。
※揚水発電/夜間など電力需要の少ない時間帯の余剰電力を利用して下部貯水池から上部貯水池へ水を汲み上げておき、電力需要が大きくなる時間帯に水を落とすことで発電する水力発電方式。
※週刊ポスト2011年11月25日号