国際情報

中国 内心一番懸念しているのは日本がTPP参加決断すること

TPP(環太平洋経済連携協定)をめぐり、日本では「TPPでコメや畜産などの農業が壊滅する」「公的医療保険の制度崩壊に繋がる」など、主にマイナス面から交渉参加に反対する意見が噴出している。しかし、安全保障が専門の森本敏・拓殖大学海外事情研究所所長は「TPPについて関税の話だけに終始するのは狭い見方」と語る。以下は、森本氏の解説である。

* * *
TPPをめぐる議論ではずしてはならないのは、対中国の視点である。

私が日本の外交筋から聞いた話では、中国側は米国政府に「日本や米国が議論しているTPPは中国を封じ込める手段なのか」と率直に聞いてきたという。米国側は「そうではない」と説明したのだが、明らかに、中国はTPPによって日米同盟による中国封じ込めが現実化することを警戒している。

長期的な視点で見れば、中国が自国の「持続的な経済発展」という将来を考えた時に、中国自身のTPP参加に関心を持っていることは大いに考えられる。しかし、胡錦濤国家主席が率いる現政権のもとでは、そのインセンティブは働かない。

というのも、中国が現状のままTPPに参加すると、中国の経済発展を支えてきた前提を崩すことになってしまうからだ。

今日に至る中国の経済成長の原動力は、共産党独裁政権の一元的な管理・統制のもとで外資を呼び込んで国内を開発し、管理された人民元のレートをフル活用して安価な製品を作って海外に輸出して外貨を稼ぐ、というものだ。もし、価格競争力のある他国の産品が関税なしで流入したら、国内の輸出産業はズタズタになってしまう。

まして中国政府は、来年に習近平体制への移行を控えている。対外的な経済関係をどう構築していくかの決断は、新政権が発足してからになるというのが、大方の見方である。その前に、国内経済の不安定要因をできるだけ減らしておきたいのが本音だろう。

そんな中国が内心で一番懸念しているのが、日本がTPP参加を決断することなのだ。

中国にとって、主な輸出国は米国、日本、EU、東南アジア諸国である。参加9 か国のGDP比を見てもわかる通り、TPPの実態は日米のFTAという側面もある。さらに、日本が参加するかどうかは、ほかのASEAN諸国も注視しており、現に参加検討中の国々にとっては、日本の参加いかんが決断する材料の一つになるだろう。

こうした状況の中では、TPPの発効が、やがて中国産品の競争力を低下させると考えられる。価格の安さという競争力で外貨を稼ぐという原則が揺らぎ、中国のマーケットが小さくなることは避けられない。そして、中国国内の輸出産業が競争力を失うことは、政権の安定性を欠くことにつながる。

中国共産党の一党支配による統治、その維持と安定が国家目標である中国にとっては、経済の発展こそが国家存立の根幹を成している。国内で失業者が増え、反政府活動が起こることを中国政府は最も恐れている。

特に日本が参加した後のTPPは、中国にとっては主に経済面でアジア太平洋地域から取り残されることを意味する。その上、中国が国内経済、国家体制を維持・安定させるためには、中国政府が自ら改革を行なって、競争力をつけた上で参加しなければならないという、高いハードルがある。

こうした中国の国内事情を考えた時、日本のTPP参加は、中国の国内制度や経済の構造改革を、外から働き掛けやすくなるという側面も持ってくる。

もし、後から中国がTPPに参加したいとなれば、昨年秋以降のレアアース禁輸措置のような勝手な振る舞いは許されず、結果、中国に国際的なルールを遵守させることにつながるだろう。

※SAPIO2011年12月7日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン