11月12日、13日に開催されたB級ご当地グルメの祭典『第6回B-1グランプリ』で、福島県・浪江町の「浪江焼麺太国」が第4位に入賞した。
「B-1グランプリ」は、「日常のまちおこし活動によって地域を元気にすること」が最大の目的だ。だから、たんなるB級グルメではなく、ご当地グルメであることが条件で、参加資格はまちおこし団体に限られ、企業や個人の店舗は参加できない。それは人口約2万人の福島県太平洋沿岸の町、浪江町の「B-1」参加意識にそのまま合致する。
「浪江は小さな町ですから、子供たちが高校・大学へ進学すると、職場がなくて帰ってこられないという話をよく聞きました。私は浪江町の商店街の同世代の力で、それをなんとかしたいと思っていたんです」
そう話すのは、町内で八島鉄工所を営む八島貞之さん(43)だ。八島さんがそんな思いを強くしていた2006年、「B-1グランプリ」全国大会が初めて開催された。グランプリを獲得したのは静岡の『富士宮やきそば』。翌2007年の第2回大会でも連覇を果たしていた。
焼きそばなら浪江にも『浪江焼きそば』がある。具は豚肉ともやし。味は濃厚な特製ソース。麺の太さは3~4mmとダントツに太く、それを地元の人々は愛している。しかし、全国的な知名度は皆無に等しい。そもそも、「浪江」という町名自体、日本でどれだけの人が知っているだろうか。
「富士宮では初のグランプリに輝いてからの4年間で、その経済効果が270億円だと聞きました。“えっ、270万円の間違いなんじゃないの?”と思いましたよ」(八島さん)
何はともあれ現地を見に行こうと、商工会の仲間に呼びかけてバスをチャーターし、見学に行ってみた。すると、富士宮やきそばを目的にきたお客さんが、地元の商店で食べたりお土産を買ったりしている。
そのための駐車場やお土産横丁、食べ歩きのパンフレットまで整えられている。まちおこしの見本が、そこにあった。いったいどうすればうまくいくのかと、その“儲けの秘訣”を富士宮やきそば学会会長に尋ねると、意外にもそれは、「面白おかしくやること」だという。
いかにお金をかけずに面白おかしくやるか。そうすればメディアにも取り上げられ、たくさんの人に知ってもらえる。
――八島さんは早速、商工会の自営業者らを中心とするメンバー十数名とアイディアを出し合った。
結果、なによりも太い麺という特徴を前面に出し、「浪江に焼きそば王国ならぬ“太国”を作ろう」という合言葉のもと、その焼きそばを「浪江焼麺太国」と命名した。「食べた人には幸福と口福が訪れる」というキャッチフレーズも決めた。“太国”のリーダーである八島さんの肩書は、大王ならぬ「太王」とした。いずれもメンバーが、わいわいがやがや、酒を酌み交わしながら、それこそ「面白おかしく」決めたことだった。
「浪江焼麺太国」の焼きそばが初めて披露されたのは2008年11月23日、町恒例の祭り・十日市祭でのこと。一連の取り組みが地元の福島民報、福島テレビなどのメディアにも取り上げられた。「地元の商工会の若手が、焼きそばで何かやるらしい」という情報が東北各地に伝わり、この年の十日市祭は、3日間で6万数千人という、例年を2万人近く上回る人出でにぎわった。
そして2年後の2010年に前述の通り「B-1・厚木大会」に参加を果たすと、その年の十日市祭にご存じ、「石巻茶色い焼きそばアカデミー」と、青森の『黒石つゆやきそば』、秋田の『横手やきそば』を招き、「東北4大やきそばサミット」を同時開催。なんと町民2万1000人の町に、全国から12万人の客を集めたのだった。
「焼麺太国」の中心メンバー十数名が自信を深め、入賞を逃した「B-1厚木大会」のリベンジを期して、2011年の「姫路大会」への準備を始めたその矢先に、震災は起きた…。
※女性セブン2011年12月8日号