国内

作家・佐野眞一氏 渡辺恒雄氏を「チンピラ」「小物」と評す

読売新聞には正力と務台という、「読売天皇」と呼ばれた2人の男がいた。“読売中興の祖”正力松太郎氏と“販売の神様”務台光雄氏らが紡いだ読売神話の実相を、『巨怪伝』で詳しく描いたノンフィクション作家・佐野眞一氏は、現君主・渡辺恒雄氏の振る舞いをどう見るか。

* * *
俺は『巨怪伝』を上梓した後、渡辺の評伝を書かないかとある出版社から声をかけられた。でも、全く書く気がしなかったね。

それは、東京ドームのボックスシートで中曽根大勲位と冷や酒を酌み交わしながら巨人―阪神戦を満足げに観戦する姿や、官房長官時代の野中広務と諮り自自路線のレールを敷いたことで日本の政治と世論を思いのままに操れるという錯誤を見るにつけ、正力との器の違いを感じてしまったからなんだ。

ほろ酔い気分で、スポーツ記者を怒鳴りつける渡辺を見ると、悲しくなってくる。大物ぶっているけれど、こういう男を日本語でふつうチンピラとか小物って言うんじゃなかったっけ。正力は自分こそ最大の権力だと思い込んでるから政治家なんかハナから相手にしなかった(笑)。

東大出身なのに、英語が苦手な正力はかつて「新聞の生命はグロチックと、エロテスクとセセーションだ」と胸を張って語った。いい言葉だよね。グロチックは凄くグロテスクだし、エロテスクは何だか妖しい響きを感じさせる(笑)。これはある面で大衆ジャーナリズムの核心をついている。新聞の躍進には徹底した大衆迎合路線が必要だ。それを実践してきたからこそ今の読売はある。

最近では読売のことを原発推進新聞なんて批判する識者もいる。でもそれは読売の一面しか見てない。なぜなら、核実験の問題を世論に喚起した「第五福竜丸のビキニ環礁で被爆」を報道したのも読売だからさ。

正力がアメリカと組んで原発博覧会にむけ奔走しているそのときに、記者たちは被曝者が運び込まれた病室のなかを一室一室訊ねて歩いて地道な、そして世界的なスクープをものにした。

だから読売は面白かった。読売にはトップと現場との間に絶妙な距離感があったんだ。務台時代だって、現場にすべて任せていたから後に渡辺にパージされる黒田清率いる大阪社会部が数々のスクープをものにした。

しかし渡辺の台頭とともに大阪読売の力は削がれていった。政治部出身の渡辺は社会部をスポイルするようになった。それどころか主筆が全てコントロールし、時には大連立の仕掛け人になった。

これでは現場のモチベーション低下は避けられないし、読者もウンザリするだろう。とくに「3・11」という大災害を体験してしまった読者の眼には、現在の読売の姿は異様に映ると思うな。

記者たちはお上の発表を垂れ流し、原発事故後の福島に入ることもしなかった。メディアとしての役割を彼らが果たせたかどうか―それは今後検証されると思うけど実際に部数は大きく落ち込んでいるそうだね。

今回の騒動の本質は人々が報道機関を眺める視線が厳しいからこそ浮かび上がってきたトップの老醜と、読売新聞の衰退なんだ。

これが「3・11」後というのは決して偶然ではないし、単に読売というコップのなかの嵐ともいえない。仮にも日本一の発行部数を誇る新聞なんだ。君主の世迷いごとだと思われてるけど、それだけですむと思ったら大間違いだ。

※週刊ポスト2011年12月2日号

関連記事

トピックス

佳子さまと愛子さま(時事通信フォト)
「投稿範囲については検討中です」愛子さま、佳子さま人気でフォロワー急拡大“宮内庁のSNS展開”の今後 インスタに続きYouTubeチャンネルも開設、広報予算は10倍増
NEWSポストセブン
「岡田ゆい」の名義で活動していた女性
《成人向け動画配信で7800万円脱税》40歳女性被告は「夫と離婚してホテル暮らし」…それでも配信業をやめられない理由「事件後も月収600万円」
NEWSポストセブン
大型特番に次々と出演する明石家さんま
《大型特番の切り札で連続出演》明石家さんまの現在地 日テレ“春のキーマン”に指名、今年70歳でもオファー続く理由
NEWSポストセブン
NewJeans「活動休止」の背景とは(時事通信フォト)
NewJeansはなぜ「活動休止」に追い込まれたのか? 弁護士が語る韓国芸能事務所の「解除できない契約」と日韓での違い
週刊ポスト
昨年10月の近畿大会1回戦で滋賀学園に敗れ、6年ぶりに選抜出場を逃した大阪桐蔭ナイン(産経新聞社)
大阪桐蔭「一強」時代についに“翳り”が? 激戦区でライバルの大阪学院・辻盛監督、履正社の岡田元監督の評価「正直、怖さはないです」「これまで頭を越えていた打球が捕られたりも」
NEWSポストセブン
ドバイの路上で重傷を負った状態で発見されたウクライナ国籍のインフルエンサーであるマリア・コバルチュク(20)さん(Instagramより)
《美女インフルエンサーが血まみれで発見》家族が「“性奴隷”にされた」可能性を危惧するドバイ“人身売買パーティー”とは「女性の口に排泄」「約750万円の高額報酬」
NEWSポストセブン
現在はニューヨークで生活を送る眞子さん
「サイズ選びにはちょっと違和感が…」小室眞子さん、渡米前後のファッションに大きな変化“ゆったりすぎるコート”を選んだ心変わり
NEWSポストセブン
悠仁さまの通学手段はどうなるのか(時事通信フォト)
《悠仁さまが筑波大学に入学》宮内庁が購入予定の新公用車について「悠仁親王殿下の御用に供するためのものではありません」と全否定する事情
週刊ポスト
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”の女子プロ2人が並んで映ったポスターで関係者ザワザワ…「気が気じゃない」事態に
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・Instagramより 写真は当該の店舗ではありません)
味噌汁混入のネズミは「加熱されていない」とすき家が発表 カタラーゼ検査で調査 「ネズミは熱に敏感」とも説明
NEWSポストセブン
船体の色と合わせて、ブルーのスーツで進水式に臨まれた(2025年3月、神奈川県横浜市 写真/JMPA)
愛子さま 海外のプリンセスたちからオファー殺到のなか、日本赤十字社で「渾身の初仕事」が完了 担当する情報誌が発行される
女性セブン
昨年不倫問題が報じられた柏原明日架(時事通信フォト)
【トリプルボギー不倫だけじゃない】不倫騒動相次ぐ女子ゴルフ 接点は「プロアマ」、ランキング下位選手にとってはスポンサーに自分を売り込む貴重な機会の側面も
週刊ポスト