中国で車にはねられ道端に倒れていた2歳の女の子が、通行人18人に「素通り」された事件は、日本でも大きく取り上げられ話題となった。だが、この事件は氷山の一角に過ぎない。もっと大きな問題が中国社会を蝕んでいるのだ。ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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最近でも今年7月、児童誘拐を繰り返す犯罪グループを中国公安省が検挙。拘束された容疑者は369人、保護された乳幼児は89人に及んだ。摘発された事例を見るだけでも、大規模に犯罪が繰り返されていることがわかる。
この犯罪の特徴は誘拐された子供は売買が目的のため、殺されるケースが少ない点にある。子供の奪還を目的に結成された民間団体「宝貝回家志願者協会」が2009年3月に実際に子供を取り戻した事例から、〈子供を買うのは、山東省や福建省、そして広東省の潮州・汕頭地区などの経済的に恵まれた成功者たちだったという。彼らの考え方は保守的で、子沢山こそが幸せと盲信し、女の子よりも男の子を尊ぶといった古い考え方に基づいて男の子を集めていた〉というのだ。
子供につけられた値段の相場は、〈男の子が一人2万5000元、女の子はわずか一人700元〉前後(日本円にしてそれぞれ約30万円と約8400円)というから驚きである。つまり中国の犯罪者は、わずか30万円程度の稼ぎのために死刑の可能性さえある犯罪の壁を易々と飛び越えてしまうのだ。
さて、この問題では最近、興味深い現象が話題となった。ソーシャルネットワークサービス(SNS)の普及に合わせて、かつて誘拐の被害に遭った子供の写真をある大学教授がアップしたところ、全国から「この子ならうちの近くの○○ちゃんではないか」という目撃談が相次いだのだ。いまでは毎月数十人単位で手掛かりが寄せられるほどになってきているという。
※SAPIO2011年12月7日号