“痴漢被害者”の婦人警官が競艇レーサーを現行犯逮捕――。そんなセンセーショナルな事件に、「審議」の赤ランプが点灯した。兵庫県の迷惑防止条例違反の罪で起訴された森下祐丞氏に、神戸地裁は11月15日、無罪判決を言い渡した。24歳の女性巡査の供述が「信用できない」(裁判官)と断じたのだ。森下氏の代理人である模泰吉弁護士がいう。
「逮捕された夜、女性巡査は痴漢の連続犯を捕まえるためのおとり捜査を行なっていた。結果的に、警察に嵌められて濡れ衣を着せられたと疑われる冤罪事件です」
5月6日の深夜。森下氏は飲み会の帰りに歩いてタクシーを探していた。森下氏は翌週に披露宴を予定。その夜、入籍したばかりの夫人と披露宴で流すDVDを作る予定だったので、帰り道を急いでいた。
その頃、女性警官は2人の男性警官とおとり捜査を展開中だった。周辺で痴漢被害が多発していたので、女性を挟み込む形で男性警官を配置、襲ってくる犯人を迎え撃つ捜査だという。
そこに通りかかったのが森下氏で、女性警官とすれ違った際に手が当たってしまった。小声で謝ると、突然、婦警が怒鳴り声を上げる。女性の格好は、上下真っ黒なジャージにサンダル履き。女性の服装や言動を見た森下氏は怖くなって逃げたという。そして、助けを求めて駐車場に逃げ込んだところを逮捕される。
「翌朝、奥さんに警官から電話があり、『おとり捜査に引っかかりよった』と話したそうです」(同前)
裁判では森下氏はぶつかっただけ、婦警は胸を触られたと主張。結局、判決は「巡査は逮捕したことで引き返せず、事実を曲げて供述したと疑える」とした。『痴漢冤罪の恐怖』(NHK出版)の著者である井上薫弁護士がいう。
「おとり捜査の婦人警官は、一般の女性のように痴漢を避けたり、逃げたりはせず、誘い込むような行動もある。犯人逮捕が至上命題なので、誤って触れても犯人に仕立て上げられる可能性がある」
所轄の須磨署は「捜査は適正に行なわれたと認識している」と回答した。森下氏は無罪が確定し次第、競艇への復帰を目指す。
※週刊ポスト2011年12月9日号