【書評】『大震災のとき!企業の 調達・購買部門はこう動いた これからのほんとうのリスクヘッジ』(坂口孝則、牧野直哉編 購買ネットワーク会著/日刊工業新聞社/1470円)
【評者】森永卓郎(エコノミスト)
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正直言うと私はバイヤーに良いイメージを持っていなかった。メーカーの営業担当を恫喝するようにして追い詰め、利益が出ないところまで値切る量販店のバイヤーのイメージがあったからだ。しかし、この本を読んで、バイヤーのイメージがすっかり変わった。
東日本大震災の発生した3月、鉱工業生産指数は前月と比べて16%下落した。特に乗用車の生産は54%も落ちた。最大の原因は、自動車工場の被災ではなく、部品が調達できなかったことだ。
乗用車は数万点の部品を組み上げて作る。一つでも部品が足りなければ、完成車にはならない。東北地方に部品工場がたくさん立地していたため、全国の自動車工場が生産休止に追い込まれたのだ。
しかし、製造業の復活は早かった。5か月後の8月には、鉱工業生産指数が、前年比でプラスとなり、震災後の混乱からほぼ抜け出したのだ。その裏側では、バイヤーたちの活躍があった。本書にはその苦闘が生々しく描かれている。
部品供給が突然絶たれた時、バイヤーたちの悩みは深い。まず、いつどれだけモノが確保できるかが分からない。被災したメーカーの復旧にどれだけ時間がかかるか分からないし、生産が再開されても、今度はそのメーカーの部品や材料の調達ができなくて、生産が止まってしまうこともある。状況は時々刻々と変化するのだ。
また、どれだけ調達するのかも難問だ。調達数量が足りなければ生産に影響がでるし、かと言って買いすぎれば「買い占め」と非難され、自社製品が売れなければ、部品の在庫を積み上げるだけになってしまうからだ。
リスクに備えて、予め調達先を分散しておくことの効果も、限界がある。複数の調達先の生産が、材料不足で同時に止まったり、分散調達をしていることを理由に、供給を断られてしまうこともあるからだ。
調達は一筋縄ではいかない。「普段から調達先と信頼関係を結んでいたバイヤーが一番強かった」という本書の指摘が、リスク管理の本質なのかもしれない。
※週刊ポスト2011年12月9日号