家電や自動車だけではない。軍事力の面においても「韓国の猛追」はすさまじい。この秋、韓国で開催された国際航空・軍事見本市は、紛争の火種がくすぶる東アジア情勢を見据えて虎視眈々と新たな“商戦”へ乗り出す韓国軍・防衛関連企業の熱気に溢れていた。武器輸出三原則に縛られたままの日本を尻目に、新型兵器の研究開発を進める隣国の“最前線”をフォト・ジャーナリストの菊池雅之氏が報告する。
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灯りの落とされた真っ暗なステージ。その周囲を取り巻くのはスーツ姿の男性たち。突如として胸に響く重低音が会場を揺さぶり、その音に弾かれるように楽器を持ったミニスカートの女性3人組が色鮮やかなライトで照らし出されて登場した。アップテンポのかなり激しい演奏が始まると、彼女たちの背後にある大型スクリーンに“サムスン”の文字が映し出された。
10月下旬、韓国ソウル郊外の城南空軍基地。地元の韓国をはじめ、世界30か国から約300の航空・軍事関連企業が参加した「第8回ソウル国際航空・軍事見本市ADEX(Seoul International Aero-space and Defense Exhibi- tion)」が開催された。
韓国軍は、日本や中国をメルクマールとし、この10年で欧米に肩を並べる有数の近代軍備を保有するまでになった。加えて、これからは武器の輸出にも力を注ぐ方針であり、近年、韓国の軍事関連企業は、朝鮮半島はもちろん台湾海峡や南シナ海などでの東アジア有事“商戦”を逃すまいとして、兵器やテクノロジーの開発・研究を進めている。韓国製兵器は、世界の兵器業界ではまだまだ無名に近い存在ではあるものの、2004年からトルコに155mm自走榴弾砲K9をライセンス輸出するなど、少しずつ成果を挙げている。
冒頭のシーンは、サムスンによる新型のテレビや携帯電話の発表会ではない。華々しいオープニングの後に会場に姿を現わしたのは、真っ黒いボディースーツを着た人物だ。日本人には、どことなくデパート屋上でのヒーローショーに出てくる戦隊モノのような稚拙さを感じさせるものの、近くにいたコンパニオンガールは誇らしげに説明する。
「これは未来の韓国軍兵士の姿です。この黒いスーツはパワードスーツと呼ばれ、これを着用することにより重量物を持ち上げたり、歩く、走るといった動作をサポートします。さらに完全IT化されており、司令部と末端の兵士をネットワークでつなぎます」
日本でサムスンと言えば、家電メーカーという印象が強いが、実は韓国軍事産業にはなくてはならない存在だ。その他、自動車メーカーとして欧米で急伸長しているヒュンダイ(現代)は、装甲車を展示していた。これらブースでは、各国の軍事関係者の姿が絶えることはなかった。
※写真/菊池雅之
※SAPIO2011年12月7日号