東京電力福島第一原発所長だった吉田昌郎氏は11月中旬に受けた健康診断で病気が見つかり、24日には病気療養で入院。所長の職を退任した。ところが退任の直前、吉田所長の「心残り」になるような事件を部下が起こしていたことは、東電は発表しなかった。
一部のメディアは警察情報をもとにベタ記事扱いで報じたが、大きな問題にはされていない。
事件が起きたのは吉田氏が入院する5日前の11月19日。この日、東京・有明の東京ビッグサイトで開かれていた衣料品メーカーのセールに訪れた福島第一原発の副長が、詐欺容疑で現行犯逮捕されたのだ。
事件の詳細を、捜査関係者が語る。
「容疑者は一人で来場し、コート、ジーパン、シャツ2点の計4点を購入しましたが、商品についていたプラスチックの値札を、安いものに付け替えたのです。本来は10万2500円の会計を、1万6000円と偽っていた。精算後、不審な行動に気づいた私服警備員が取り押さえ、警察に引き渡しました」
逮捕後、福島第一原発の副長であることが発覚した同容疑者は、「目の前に安い値札があったので、付け替えれば安く買えると思った」と供述している。
この犯行に首を傾げるのは、イベント関係者だ。
「タグを付け替える行為は難しいので、容疑者はかなり目立っていました。しかも、4点のうち最も高価なコートは6万6100円。セール品で3割引きですから、本来は10万円ほどの商品を、何と7000円の値札に付け替えていた。これではバレバレです」
気になるのは、なぜこんなにリスクの高い犯行に及んだのか、という点だ。臨床心理士の矢幡洋氏はこう分析する。
「潜在意識の中では、むしろ捕まりたいと思っていた可能性がある。心理学的にはこれを『回避行動』といいます。何らかの形で不祥事を起こして、現場のストレスから逃れたい、処分されて今のきつい仕事から逃れたい、と思っていたのではないか」
この副長は、平日は福島第一原発で勤務し、週末に自宅のある東京に戻ってきていたという。東電では、副長は課長の下の役職で、一般企業の係長にあたる。中間管理職のストレスを東京で発散していたのか。東電は「捜査中なので何も申し上げられない」という。
※週刊ポスト2011年12月16日号