財務省出身で環境省事務次官も務めた田村義雄・駐クロアチア大使(64)が現地採用のクロアチア人女性職員へセクハラ行為をしていたことが週刊ポストの報道で発覚した。今年4月、外務省では佐々江賢一郎次官が田村大使を一時召還し、内々に事情を聞いたという。だが、大使はあっさりとクロアチアに帰っていった。
省内では、「次官が大使を厳重注意して当面、改善されるか経過を見ることになった」とされている。査察官の調査で田村大使のセクハラ行為が裏付けられたにもかかわらず、身内だけで事実上、不問にしたのである。
もし、東京の外国大使館に勤務する日本人女性が大使に同じ行為を受け、相手国でその事実が問題化しているにもかかわらず、大使が処分もされずに居座れば国民は屈辱に震えるはずである。邦人女性を暴行した在日米軍の兵士が日米地位協定で守られ、日本の裁判も受けずに帰国することに唇をかんできた国民には、その実感があるはずだ。
駐レバノン大使を経験した元外交官の天木直人氏が指摘する。
「事件の舞台が米国やフランスなど主要国であれば一発でアウトです。被害女性からセクハラ訴訟を起こされ、とうに外交問題に発展しているでしょう。クロアチアでもこれからそうなる可能性は少なくない」
そのうえで、「国益より省益」の霞が関の構造的問題が外交の重大過失を招いていると分析した。
「問題は事件を起こしたのが財務省出身の大使だということです。主要国の大使など9割は外務省プロパーが務めているが、北欧や東欧の、治安や生活環境が良く、外交案件が少ない国には外務省が交流人事で他省庁に大使ポストを配分している。
次官経験者となれば実質的な天下り先です。仕事があまりないうえに、外交官特権が与えられ、給料も月額100万円以上の本俸に加え、税金が一切かからない在勤手当が月に50万~80万円も出ます。
そうしたおいしいポストを与えるかわりに、財務省に在外手当など予算で便宜をはかってもらう霞が関の悪しき慣習だからクビにできない」
大使は国家の全権代表として赴任し、相手国政府との交渉や邦人保護に責任を負う。そのため米国などでは、議会の公聴会で適格性が厳しく審査され、議会の承認を得なければ任命されない。だが、日本では外交官の訓練も受けず、資質もない官僚が霞が関の天下り人事の一環でトコロテン式に任命される。
大使の給料は最高月額約120万円にボーナスが加わるうえ、天木氏の指摘のように在勤手当がつき、他省からは、「大使を2か国やれば田園調布に家が建つ」とうらやましがられる風潮さえある。田村大使のようなOB官僚は、ざっと8000万円とされる次官時代の退職金に加えて、大使を3年やれば最低でも500万円の退職金が出る。そのうえ、赴任地では日本の恥をさらし、国家に外交的損失を与えるとは言語道断だ。
これが官僚トップである元事務次官の特命全権大使の姿なのか。
クロアチア政府の見解を問うと、「事実関係を把握していないので対応はお答えできない」(同国外務省)と回答した。日本の外務省と田村氏の古巣の財務省はこの外交問題にどう始末をつけるのか。
「本件の事実関係についてはコメントできない」(外務省報道課)
「現在は財務省の職を離れているので事実を確認する立場にない」(財務省)
本誌は田村大使を直撃したが、そのやりとりはこうだ。
――大使のセクハラが問題になっている。
「はァ、まったく事実じゃありません」
――今後も大使の仕事を続けるのか。
「(目を丸くして、一瞬口ごもり)いえいえ、もう全然、だいいち、まったく事実じゃありませんから……」
つとめて平静を保つようにそう語って公用車に乗り込んだ。
だが、本誌はその後、田村大使が大使館員たちに「『週刊ポスト』の取材に気をつけるように」と指示を出したことを掴んでいる。事実でないならば、何に「気をつけろ」というのか――。
※週刊ポスト2011年12月16日号