大阪のW選挙で大阪維新を掲げ圧勝した橋下徹氏だが、今年新たに、橋下氏の「不倶戴天の敵」となったのが関西電力だ。
夏の“電力危機”では、関電が管内の自治体に要請した15%節電に対し、原発を再稼働させるための“煽り”であることを見抜いた橋下氏は、「根拠がない」と一蹴した経緯がある。
橋下氏が就任する「大阪市長」は、関電株を約9%保有する筆頭株主。橋下氏は選挙中から関電に「脱原発」を求め、当選した暁には電力自由化を株主提案する姿勢を表明した。
だが、関電側はW選挙翌日(11月28日)の定例会見で、「原発の再稼働に全力を尽くす」(八木誠・社長)と述べ、全面対決も辞さない構えだ。在阪の経済ジャーナリストがいう。
「近畿における関電の発言力は圧倒的で、選挙では関西財界を挙げて対立候補の支援に回った。橋下氏の恨みは深い。直接対決となる来年6月の株主総会は大荒れになる」
それを見越していたかのように、橋下氏サイドはこの夏から「脱関電」計画を進めている。大阪府知事選で維新の会が古賀茂明・元経産省審議官の出馬を検討したのも、その一環だ。
「古賀さんは単に改革派官僚だったというだけでなく、経産官僚として電力行政を知り尽くし、原発事故直後から発電と送電を分離し、総括原価方式(※)を改めるべきと述べてきた。そこで橋下氏は古賀氏をブレーンに招き、特に電力問題について詳しくレクチャーを受けていた」(維新の会所属議員)
電力自由化は、関電や東京電力が絶対に受け入れられない内容だ。送電網を支配することで中小の発電会社(PPS=特定規模電気事業者)の成長を妨げ、総括原価方式によって「コストをいくらかけても儲かる仕組み」を構築できた。
PPSが供給する電気は契約電力50kW以上の大口事業者しか契約ができないが、契約すると電気料金が約3割下がった実例もある。また、「既存電力会社が送電網を開放して託送料(送電手数料)がなくなれば、半額でも供給できるのではないか」(PPS会社幹部)という。現時点で橋下氏はPPS導入について発言していないが、同氏の政策スタッフはこう語る。
「多くの政治家は関電の票とカネが欲しいから強く出られないが、橋下さんにしがらみはない。PPS各社に働きかけて、関電に送電網の開放を迫るのではないか。条例で現行の50?kW規制撤廃に動くことも考えられる。一般府民も安い電気の恩恵を受けられるから、大きな動きになる」
ただし、ここには“落とし穴”もある。
橋下氏は電力自由化とともに「自然エネルギーへの転換」を主張している。だが、太陽光や風力などの自然エネルギーは設置費用が高く、安定供給に難があるため、エネルギー政策の専門家からは「急激な移行をすればコストが跳ね上がる」との指摘がある。前出の政策スタッフはこういう。
「橋下さんは、自然エネルギー信奉者ではない。原発稼働をゴリ押しし、高い電気を売りつけようとする経産省や関電の既得権を取り上げることが最大の狙い。まずは株主総会で、大株主として発送電の分離を要求するだろう」
それが実現すれば大阪の電気料金は半額になる可能性もある。相手は関西財界の雄だけに、かなりド派手な戦いになりそうだ。
※総括原価方式/発電や送電に要したコストに一定の利益(現在は約3%)を上乗せして電気料金を決める方法。したがって電力会社は損をしない。
※週刊ポスト2011年12月16日号