重ねた紙の上に刃先を当てて引いても最上部の1枚しか切れない1枚切りカッター、オルファの『キリヌーク』が、同社の予想を上回る販売数を記録している。開発を断念し、一度は担当を外れた開発者の執念が実を結んだ。
1956年(昭和31年)、ガラスの破片と板チョコをヒントに、切れにくくなった刃先を折り、最後まで切れ味を持続させるカッターが考案された。今ではおなじみのスタイルだが、これは日本独自の方式。考案したのは大阪市に本社を置くオルファ。「折る刃」がそのまま社名になった。あれから50年以上の時を経て、また新たなアイデア商品が誕生した。
力の加減に左右されない「1枚切り」、『キリヌーク』だ。昨年10月に発売後、10万本という、特殊なカッターとしては「驚異的」な売り上げを示していた。
「デジタル時代の今、果たして需要があるのか、半信半疑でしたが、雑誌や新聞の記事を切り抜きスクラップしたいという用途は意外に根強かったのです」
そう安堵の表情を浮かべるのは同社商品開発部課長代理・岡畑賢治氏。『キリヌーク』は岡畑氏の手によって誕生した。
試作を作っては同僚に試用を依頼。改良に改良を重ね、2010年の夏、ついに完成した。早速社長室に持参し、試してもらった。何度切っても、切れるのは最上部の1枚だけ。社長はただひとこと、こういった。
「賢いなぁ~」
発売後、雑誌の料理レシピなどの切り抜きに便利だという若い女性の意見も届くようになってきた。
「ゼロから考える製品開発はがむしゃらに考え続ければよいというものではありません。考えすぎても視野が狭くなり、前へ進めなくなるということもよくわかりました。また、世間をあっといわせる商品を作ってみせます」
※週刊ポスト2011年12月16日号