外務省は田村義雄・駐クロアチア大使に「帰朝命令」を出す方針を固めた。正式な発令は12月20日に出される予定だ。
週刊ポストは前号で、田村大使が現地大使館で採用したクロアチア人女性職員にセクハラ行為を行ない、同省は監察査察官の調査で事実を把握していたにもかかわらず、不祥事を握り潰していたことをスクープした。
田村大使は財務省出身で同省関税局長から環境省事務次官にのぼりつめ、2009年5月から特命全権大使としてクロアチアに赴任している。大使の任期は平均で3年程度なので、在任1年7か月での“解任”はセクハラ事件を闇から闇に葬るためと思われる。
外務省は11月に20人近い大使の交代人事を発表しており、12月には各国大使に一斉に帰朝命令が出される予定だ。外務省欧州局での勤務経験がある中堅幹部は明かす。
「当初は田村大使の交代人事は予定されていなかったが、目立たないように人事異動に合わせて交代させることになった。すでに本人にも内示されている」
しかし、玄葉光一郎・外務大臣はさる12月7日の記者会見で、本誌・週刊ポストの質問にこう答えた。
「(事件は)ポストの記事を読んで承知している。あくまで一般論だが、事実であれば厳正に対応し、必要があれば処理も考える」
すでに大使の交代が決まっていることはおくびにも出さなかった。あくまでも大使の交代は定例人事異動だという建前なのだ。
「大使のセクハラ」は日本外交にとって大汚点だ。
本誌前号発売後、外務省は厳戒態勢を敷いた。各国大使館の館員たちにはメールで記事が広がり、クロアチアに近い駐イタリア大使館では「ついに出たか」と波紋が広がったという。事件の舞台となったクロアチアの首都ザグレブの日本大使館には、本省人事課から本誌の報道内容が伝えられ、「大使の問題についてクロアチア政府から照会があっても、一切応じるな。すべて本省で対応する」という内々の指示が出されたことを本誌は掴んでいる。
外務省が懸念するのは当然だろう。
クロアチアでは12月4日に総選挙が行なわれて政権交代が確実な情勢だが、ヤドランカ・コソル現首相はジャーナリスト出身で同国初の女性首相であり、ミラ・マルティネツ駐日大使も女性。今年6月に着任すると東日本大震災の被災地を訪れ、被災地の小学生約30人をこの夏、クロアチアの観光地スプリトに招待している。それだけに、日本の特命全権大使の女性職員を弄ぶ行為が外交問題に発展するのは避けられそうにない情勢なのだ。
「クロアチア外務省は週刊ポストの報道の概要をすでに知っており、東京のクロアチア大使館に記事の詳細な翻訳を送るように指示しているそうだ。クロアチア人職員が被害者であることがわかれば政府は黙っていないだろう。相手国の信任状を受けている田村大使は帰国前にコソル首相に離任の挨拶をしなければならないが、拒否されるかもしれない」(先の外務省中堅幹部)
そうなれば、日本の外交史上かつてない屈辱的な扱いだが、外務省はその前に自らの手で大使を処分する決断を下すことができず、逆に財務省有力OBである田村大使を単なる“離任”ですまそうという姿勢なのだ。
この国はいつから、特命全権大使に国内の「免責特権」まで与えたのか。
※週刊ポスト2011年12月23日号